Open Air Party ERR 2012

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  • 2010年以来2年ぶり、3度目の開催を迎えた野外パーティーERR。今回も東京、静岡、関西から、実力派の面々が伊豆の山中に集結した。会場のだるま山高原キャンプ場は、富士山と駿河湾を望むことができる絶景が売りだが、当日はあいにくの曇り空。ひとまず天候の回復を待ちながらのスタートとなった。 オープンアクトを務めたのはERRの主催の一人Yasu。ジャズ、アンビエントから緩やかにテクノ、ハウスへと移行。ジャンルの垣根を越えながら、統一された空気感でじっくりと確実に流れを作っていく。二番手のKeita Magaraは、綻びの美学とでも言うべき、グルーヴを築いては崩す独特のスタイル。一筋縄ではいかない、ひねりのあるセンスを存分に感じられるDJを行った。この頃になると、ほぼテントを建てるスペースは満杯。それほど大規模なキャンプ場ではないとはいえ、主催者側も驚くほどの客入りの早さは、このパーティーの期待値の高さが現れていると感じた。続いては、Ryo Murakamiのライブアクト。黄昏に映える、深遠なエレクトロダブを展開していく。質感を感じとれるような電子音と、身体を内から揺さぶる重低音の波動。どれをとっても既存のジャンルでは括れない、独自のスタイルが確立されていた。Murakami氏のラストの曲に美麗なシーケンスを繋ぎY.のDJが開始。今回はERRに対応したテクノ、ハウス中心の選曲だが、そこかしこに氏の持ち味といえるディスコテイストが加えられ、表情豊かなサウンドを放っていた。続くop.discのTaroは、テクノとハウスの中間を縫うような、研ぎ澄まされたグルーヴをキープしていく。フロアに観衆が集まりだす時間帯でのプレイは、長年の経験則と優れた観察眼が遺憾なく発揮されていた。 AOKI takamasaは緩やかなダウンテンポの楽曲でスタートし、後半には、近年AOKI氏が注力しているソリッドなテクノセットを披露。氏のトレードマークといえる、純度の高いビートは、無機質さと肉体性が同居した唯一無二のもの。刺激的で、どこまでも自然なサウンドのライブセットであった。雨の予感と共に始まったのは、京都を中心に活動するKoheiのDJセット。ミニマルハウスからシカゴハウスまで新旧問わず選ばれたレコードを、グルーヴを的確に捉えながら丁寧に組み合わせていく。楽曲の魅力を余す所なく引き出すプレイは、着実にフロアの熱量を上げ、気付けばブース前はこの日一番の盛り上がりを見せていた。豪雨の中、Koheiから絶妙な形でバトンを受け取ったKABUTO。ディープハウスを主体に実に幅広い選曲を行うDJだが、この日はパーティーの流れを重視し、高揚感溢れるテクノセットを披露。徐々にピッチを上げ、ドライブ感あるリズムを力強く重ね合わせていく。まさに男気溢れるプレイでフロアを牽引した。静岡のテクノシーンを長年にわたって支えてきたKatsuは、一旦クールダウンしたのち、徐々に自らのペースへと移行していく。タイトな低音のグルーヴに浮遊感あるフレーズを散りばめ、独自の空間を創出した。DJ Tasakaは持ち前のファンキーなスタイルはそのままに、大型フェスなどとは違った、よりディープな方向性を感じさせる選曲。確実に観衆を引っ張る手腕で、朝に向けてフロアに更なる活力を注いでいた。 Photo Credit: Yuu Murata 朝方からは数々の野外パーティーで辣腕を振るうPrimitiveクルーが登場。Side BはAbleton Liveを、コントローラーとDJミキサーで操るライブセット。絶妙にトランシーな中毒性の高いループを、フロアの空気に合わせ巧みに展開した。Dj KonはCDJを中心としたセッティングでプレイ。逞しくも一癖あるテクノ、ハウスを基調に、ミックスやエフェクトによってユニークな味付けを施していた。CABARETを主催するDJ Masdaは、一貫したムードを保ちつつも、多彩なグルーヴを高い技量でまとめあげる。似た曲をただ繋げるだけでは生み出せない、ワイルドかつ色気のあるハウスグルーヴは、フロアを更なる興奮へと誘っていた。この時間帯になると、踊りきってラストを迎えようと、観衆が続々とブース前に集結していた。そんな熱気溢れる空間を締めくくるべく、ERRの発起人Tenが登場。圧倒的な安定感と、にじみ出るようなファンクネスは、派手さに頼らずともカラフルなグルーヴを描き出す。この時点で天候はかなり悪化していたが、フロアの最前列は雨脚に負けないほどに白熱。彼らのエネルギーを受け止めつつ、Tenはあくまでペースを崩すことなく、自らの持ち味を活かしきったDJを披露した。 ERRは、ディープハウス、テクノに特化したパーティーであったが、似通ったスタイルの中で、アーティストの個性が浮き彫りとなっていた。また、アーティスト同士が刺激しあい、各々の最大限の力が引き出されているように感じた。DJブースの両脇に設置された大型のTurbo Soundスピーカーの威力も凄まじく、テント内はもちろん、キャンプ場の入り口近くでも音像を把握できるほど、会場全体までサウンドが行き渡っていた。フロアから少々離れた場所にはバースペースとフードコートも出店。バースペースにはホットワインなどの暖かいドリンクもあり、身体が冷えたダンサーにとっては嬉しい品揃え。フードコートのメニューは、お茶漬けやさつま揚げ、そぼろ丼など、いずれも味わい深いもの。この日の裏のベストアクトと言えるほど、パーティーを陰ながら支えた逸品であった。 先述した通り、夜になると雨が降りはじめ、10mも離れてしまえばフロアはほぼ霧で見えなくなり、かすかにライトが浮かび上がるのみとなっていた。そのためか、針飛びの頻発や、DJブースの雨漏りなどといったトラブルが発生したが、アーティストの対応力やスタッフの尽力もあり、幸いにも大事には至らなかった。今回のパーティーを無事完遂できたのは、過酷な環境を乗り切ったオーディエンスたちのおかげである。だが、彼らが最後まで踊り続けたのは、もちろんアーティストの優れた手腕があったからだ。良質なサウンドシステムや予想外の天候も含め、全ての要素が噛み合い、今回の異様なほどの盛り上がりがあったのは間違いない。結果的には、非常に満足度の高いパーティーを体験することができた。とはいえ、次こそは、あの場所で富士山を眺めながら踊ることができればと思う。 Photo Credit: Yuu Murata
RA