Daphni - JIAOLONG

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  • ManitobaやCaribouといった名義でキャリアをスタートさせた当初、Dan Snaithは牧歌的なパーカッションにクラウトロック的なトーンを落とし込んだ作風を展開させていたが、2010年のアルバム『Swim』以降は明らかにダンスミュージックへの興味を急速に強めている。それはもちろんSnaith自身がDJとしても活動を広げている所為もあるだろうが、『Swim』での潜行するようでいて推進力にあふれたサウンド表現はBorder Communityのようなレーベルからリリースされていてもおかしくないほど魅力的なサイケデリックさを内包していた。ちょうど『Swim』のリリースと前後する頃から、Snaithはリミックスおよびエディット・ワークなどの時の名義としてDaphniを名乗るようになり、盟友Four Tetとのスプリット12インチでは"Ye Ye"などの素晴らしい作品も残している。 そうしていくつかのトラックをDaphni名義でリリースしてきた彼だが、それらをまとめたものがこのDaphniでのデビュー・アルバムとなる『JIAOLONG』だ。タイトルは彼自身が運営するレーベル名とまったく同じで、多様なシングルから寄せ集めた内容でありながらも実に調和性が高く、アルバム自体がひとつの完成されたミックスであるかのような強度を持ち合わせている。かつてワンマン・ジャムバンド的な性質を持ち合わせたSnaithの過去の名義での作風を期待する向きには、このアルバムで提示された逞しくも複雑なサウンドには面食らってしまうかもしれない。 Snaithは複数のインタビューにおいてDaphniのトラックを長尺というよりは瞬発性の高いクリエイションに重きを置いたものとして語っており、彼自身のDJセットに組み込む前提で作られているとも語っていたのだが、ガチガチの機能性の裏には実にすっきりとした繊細さが潜んでいる。このアルバムには1回か2回のテイクでトラックを完成させたざっくりとしたアプローチと、6ヶ月から8ヶ月ものあいだじっくりと煮詰めた饒舌なトラックが同居しており、非常に才気あふれる内容だ。たとえば"Ye Ye"は短くカットアップされた"yeah yeah"というヴォーカルサンプルが下降するシンセのうねりと共に渦を描き、コンゴの一発屋Cos-Ber-Zamの"Ne Nova"をアフロ・リズム仕立てにしたリミックスではへヴィーで攻撃的なファンク性をあえて切り取り、Snaithならではのワープしたシンセが顔を覗かせている。ほかにも、アルバム1曲目の"Yes I Know"は鋭利でいてささやかな前後不覚状態を作り出しつつ、あたかもTheo Parrishのエディットをクリーンにしてしまったかのようなホーンに満たされた怒濤の展開をみせる。アルバム中でも重要なトラックである"Pairs"ではまたしてもアフロ・ビートをモチーフに彼の浮世離れしたシンセ・ワークが絡められている。 SnaithのManitobaやCaribou名義での面影が残っているのは、実際のところ"Ahora"ぐらいではないだろうか。トライバルなフルートが縫うように絡められたこの曲は『Swim』での眩いアシッド感覚を思い起こさせる(遠くから響くような沈鬱なSnaithのヴォーカルこそないが)。古くからのCaribouファンはSnaithがいまもこうした作風を真摯に引き継いでいることを知って歓喜するはずだ。しかし、Snaith自身がより深くダンスミュージックに対し傾倒するにしたがって、そうした要素はどんどん切り落とされているものであることも確かだ。率直に言えば、こちらとしてはManitobaやCaribou名義での作風も残してくれた方が嬉しいのだが。ともあれ、この『JIAOLONG』がホームリスニングにも汗臭いダンスフロアーにも等しく機能する多面性を持った今年屈指のアルバムであることは断言できる。
RA