Silent Servant - Negative Fascination

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  • 初期のエレクトロニック・ミュージックとポスト・パンク/ノイズ、そして現代のインダストリアル色の強いテクノとの関連性は、近年とみに明確になってきていると思う。それは、ほかでもないSandwell Districtの功績だろう。LAのヴォーカル・ポスト・パンクのファンにしてTropic of Cancerの首謀者でもあるJuan Mendezは近年Silent Servant名義での作品において、ドイツ流儀のテクノを解体しドロドロとしたアトモスフィアを注入したうえでポスト・パンク期の7インチシングル群が持っていたのと同種のゴシック的な世界観へと作り替えてみせている。ここ最近はSandwell Districtからその膨大な作品群を発表してきた彼だが、そのデビューアルバムは意外なレーベルから届けられた。それはノイズ・アーティストでもあるPrurientのHospital Productionsだ。テクノ顔負けの鋭いフリーケンシー、歪みまくったサウンドで知られるレーベルだ。 もちろん、この『Negative Fascination』もそのレーベルカラーに沿った内容にはなっている。しかし、その内容は明らかな自信に満ちており、アルバム1曲目のビートレス・トラック"Process (Introduction)"での息を吞むようなサウンドスケープはRaimeにも繋がるオカルト的なサウンド実験に満たされ、"Invocation of Lust"では捩じれた金属のようなアルペジオが表面をなぞっていく。MendezにしろSandwellにしろ、これまでは多少はメロディ的要素があったものの、"Invocation of Lust"ほどその感覚を押し出した作品は過去にはなかったはずだ。 これらのトラックはメロディックで印象に残りやすいものではあるのだが、それと同時にMendez独特の無慈悲さは若干抑制されている。とはいえ、"The Strange Attractor"は鼓膜を引っ掻くようなコードが空間を絶え間なくパンニングし、まるでリスナーを置いてけぼりにするかのような残忍さを持ったトラックであり、"Temptation & Desire"では錆び付いたキックやきついフリーケンシーで展開されるアシッドでさらに無慈悲さが強調されている。いっぽう、"Moral Divide (Endless)"はTropic of Cancerでの硬質さを彷彿とさせ、比較的ロングトラックとなった"Utopian Disaster (End)"ではSandwellのサウンドが凝縮されたかのようなサウンドを展開している。堂々と伸びるコードは地平線から浮かび上がるようなアルペジオによって繋ぎ止められ、その漆黒のようなアトモスフィアの中では懐中電灯なしでは一歩も進めないだろう。 この『Negative Fascination』において最も印象的なのは、Mendezがたったの40分でこのアルバムすべてのトラックを仕上げたという事実だろう。このアルバムを覆う調和性を思えば、なおさら驚きである。非常に凝縮感のある作品であり、これまでのMendezらしいサウンドを隈無く盛り込みながらそれらをさらなる高い次元へと押し進めている。
RA