Ry / Frank Wiedemann - Howling

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  • Innervisionsはこれまでも耳に馴染みやすい、いわばポップなサウンドを展開してきた。それでも、このÂme とDixonによる名門レーベルがClive Davis率いるJive Records(そう、Britney SpearsやR. Kellyでおなじみ)のアーティストと手を組むとは誰が予想できただろう?JiveがRCA Recordsの傘下となるより遥か前の2010年夏、オーストラリア出身LA在住のシンガー・ソングライターRy CumingはJiveよりデビュー・アルバムをリリースした。以来、さまざまなポップ・フィールドのアーティストたちにフィーチャーされてきたRyだが、今回はなんとÂmeの片割れでもあるFrank Wiedemannと手を組んだのだ。そのニュースは多くの話題を呼び、Dixonが今年はじめに発表したBoiler Roomミックスの締めくくりにこの"Howling"を選んだ際もSoundcloudのコメント数はおびただしいものとなった。そして今回、この話題盤がついに正式リリースに到ったのだ。 Wiedemannとしては初のソロ作となるこの"Howling"はInnervisionsにとっても初めてとなる直球のポップ・チューンだ。だが、かといって彼らは唐突な方向転換をしているわけではない。シンコペーション感の希薄な硬いリズム、心地よくも情感たっぷりのシンセ・ラインや空間性の高いヴォーカル処理などはやはりInnervisionsならではのものだ。それまでと違うのは、トラックの大半を官能的なヴォーカルとアコースティック・ギターが覆っているところだろう。それはPanorama Barで鳴り響くタイプのトラックというよりは、むしろ涼しく張りつめた日曜の夜の空気の中をひたすら歩いて家に帰るときにこそ沁み入るようなサウンドだ。Gotye的なゴージャスなコーラス・ワークこそないものの、典型的なラジオ・チューンに比べると3倍以上の長さを持つこのトラックはやはりポップ・ソングの枠をはみだしていると言えよう。Âmeによるリミックスは、もしすべてのメジャー・レーベルのダンス・リミックスがこんな感じならば最高だなと思わせる仕上がり。オリジナルのアコースティック・ギターの音色を削ぎ落とし、力強いビーツが前面に押し出されているのだが、Max Martinによるシンセはいったん再構築されて心地よいミニマルさに置き換えられている。最後に収録された"Watched You Run"ではCumingの繊細なピアノと諦観あふれるヴォーカルを硬質で微細なクリック音が引き立てており、このEP中でも最もクロスオーヴァー度が高い仕上がりとなっている。反ポップ的なスタンスを取るテクノ・アーティストたちはこれを聴いたらさぞかし打ちのめされることだろう。
RA