John Roberts - Paper Frames

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  • 2010年に傑作アルバム『Glass Eights』をリリースして以降、John Robertsは数えるほどのリミックスを除いてはしばらく沈黙の状態にあり、彼の精巧にアレンジされた華麗なコンポジションをここ数年聴くことができる機会はなかった。もちろん彼の不在は我々にとって寂しいものであったが、彼にとってはこの沈黙の期間は究極的には正しい選択であったはずだ。というのも、あまりにも急に自分のまわりにハイプが取り囲んでくるような状況はこの元ニューヨーク在住のベルリナーにとっては決して心地よいものではなかった。今ようやく、最適ともいえるタイミングでRobertsは再びその美しい音楽を我々のもとへ届けてくれた。この「Paper Frames」から醸し出される抑制されたムードは同時蒸留的でもあり、Roberts独特の豊潤なアトモスフェリックさは『Glass Eights』以降寸分も損なわれていないという事実を雄弁に語っている。 EPの始まりを告げる"Untitled II"はまるでRobertsが長い眠りから目を覚ましたようにも感じられる。ピッチの揺れたドラムはぎりぎりのところでリズムを成し、ぼんやりと寄り添うようなチェロとピアノはやはり不協和音ぎりぎりだ。タイトルトラックの"Paper Frames"は4つ打ちではあるものの、いわゆるモダン・ハウスというよりはMount Kimbie的と言うべきで、それまでのダンサブルさはまったく存在しなかったことになっているようにさえ聴こえる。"Untitled IV"では奇妙なコードに古ぼけたピアノを重ねつつ、"Crushing Shells"では4つ打ちのビーツを援用しながらもやはりグルーヴィさはほとんど希薄で、森の中にいるようなドローンと煌めくようなハイエンドがせめぎあってかろうじてグルーヴが生まれている程度だ。この「Paper Frames」をかつてのJohn Robertsらしい作風を期待して聴くのは間違いかもしれないが、この脊椎を震わせるようなメンタルさはやはり彼ならではのものだ。
RA