TAICOCLUB 2012

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  • 今回で7年目を迎えたTAICOCLUBが、長野県のこだまの森にて、6月2 日〜3日にわたって開催された。今年もエレクトロニックミュージックを軸に幅広いラインナップが揃い、充実した一日を提供してくれた。その様子を紹介しよう。藪原駅からのシャトルバスに乗って、17時頃に入り口に到着。木々に囲まれた道を歩み会場へ向かうにつれ、特設ステージからBoredomsによる音の波動が伝わって来た。この日のライブでは、サポートドラマーが、各々スタッフが牽引する台の上でプレイするという、驚愕の演出が行われ、早くも観衆の熱気はピークに達していた。 特設ステージから少し登った所にある野外音楽堂へ向かうと、クボタタケシが、ワールドミュージックの本懐を感じさせるプレイを展開。ロケーションも相まって、緩やかで心地の良い空間が形成されていた。小休止を挟み、音楽堂にはSly Mongooseが登場。強靭なファンクネスを感じさせる人力ダンスビートに、洗練された暖かく深みのあるサウンドが重なる、熟練のライブセット。最後には彼らの代表曲”Snake and Ladder”が演奏され、ひときわ夜の始まりを盛り上げた。 続いて特設ステージでは、サカナクションのライブがスタート。80年代ニューウェーブや、テクノのエッセンスを取り込みつつ、今の音として表現する希有なバンドである。幾つかの場面では、メンバー5人がまるでKraftwerkのように横並びでラップトップを操り、そこから生演奏へと瞬時に切り替えるパフォーマンスを披露。この日一番の盛り上がりを見せた。それに次ぐ盛況ぶりを見せたのが、日本のヒップホップ黎明期から独自のスタンスで活動を続けてきたスチャダラパーだ。ときに鋭い風刺と皮肉が光るリリックと、対照的に、ポジティブなエネルギーに溢れたトラックとラップは、未だ衰えを感じさせないもの。今やライブに欠かせない人物となったロボ宙のサポートや、名曲”Get Up and Dance”にて元キミドリのクボタタケシがラップで参加するなど、徹頭徹尾興奮を持続させるライブセットであった。 うってかわって特設ステージに出演したTR-101のライブは、Sleeparchive の、SH-101をメインとした、淡々としたシーケンスに、DJ PeteがTR-909で構築する、ミニマルだが肉体的なグルーヴによる催眠的なサウンド。舞台に映し出される映像も相まって、ライトの明滅ひとつで観客を奮い立たせるような、強烈な陶酔感を生み出していた。今年のベストとの呼び声も高い。 小休止を挟み再び野外音楽堂へ赴くと、日本における不動のテクノアイコン、石野卓球のDJが始まっていた。最初の一曲で自らの世界に引き込むそのプレイからは、もはや貫禄すら感じられる。夜も更けて一層気合いの入ったダンサー達を興奮のるつぼに落とし込んだ。早朝に行動を再開し、特設ステージに向かうと、Africa Hitechがライブを行っていた。ロービットデジタル感あるサウンドにSteve SpacekのMCが合わさり、独自の美しい世界を構築。ドラムンベースもしくはダブステップ、初期UKテクノにも通ずるようなサウンドからは、Mark Pritchardの雑食的な音楽嗜好と、彼の辿ってきたキャリアの豊富さを感じ取れた。 今年の目玉Ricardo Villalobosが登場すると、一晩中遊び通した人々も、朝日とともに行動を再開した人々も、その多くがフロアへと集まってきた。一方Villalobosは、緩やかな展開でスタートし、じっくりと観衆を引き込んでいく。後ろ髪を引かれつつ野外音楽堂へと向かうと、06年以来の出演となるPepe Bradockが登場。個性的なフレンチハウス勢の中でも、ひときわ独特なセンスを持つ彼のDJは、鮮やかでひねりの効いた流れをつくり出し、朝方の野外音楽堂を心地よくも刺激的な空間へ変えていく。下に戻ると、日が昇ってきたせいもあってか、VillalobosのDJはよりパーカッシブで高揚感のあるスタイルに移行。やや性急な展開を見せることもあるVillalobosのプレイだが、氏の場合はそれが却って鮮やかなうねりを生み出し、観衆を刺激する。とくに今回のセットは、氏の持ち味が遺憾なく発揮されたものであった。 続くJosh Winkは、シンプルな構造のテクノ・ハウスに、エフェクトやミュートでトリップ感溢れる変化を加え、フロアに更なる熱気をもたらす。技量とセンスを併せ持つ、ベテランの凄みを感じさせるプレイであった。常に笑顔を絶やさず、観衆と音のコミュニケーションを楽しむその様子は、なぜ彼が第一人者であり続けられるかを伺い知ることが出来るものだった。アンコールに応え再登場したJoshは、日本語でマイクパフォーマンスを行ったのち、氏の傑作”Higher State of Conscisousness”に繋ぐ、サービス精神溢れるパフォーマンスでメイン特設ステージの最後を飾った。上へ向かうと、既にNick The Recordsによる恒例のロングセットが行われていた。ディスコを軸に、絶妙なバランスで綴られていく氏のプレイは、TAICOCLUBでは一際冴え渡り、これを観ずには帰れないというリピーターも多いほど。途中雨に見舞われるも、まだまだ終われないと言わんばかりのタフな観衆が揃い、素晴らしいバイブスを保ったまま5時間にわたるプレイを完遂。今年もTAICOCLUBを締めくくった。 フェスの雰囲気は、子どもやペットを連れた人もしばしば見かけられ、休憩所や遊具なども備わった、自由度が高いものだなと感じた。あえて分けるとすれば、特設ステージでは思い切り遊び、芝生の広がる野外音楽堂はリラックスして踊れる場所と表せるだろう。各ステージのラインナップからもそれが読み取れる。個人的に気に入ったのは、メインステージPAの裏の大きな焚き火。6月とはいえ、少々肌寒い夜には有り難いスポットであった。一方で、より快適に過ごせるようにするには、分別ルールやポイ捨てなど、ゴミの処理については少々改善するべきだろう。音響面は両ステージ共に、過不足無い音量で鳴っていたが、特設ステージの両端と中央では、音質の差が大きいと思えた。とは言え、山に囲まれた屋外での、包まれるようで、かつ突き抜けるようにも感じられる独特の音像は、やはり格別のものである。 昨年から今年にかけて、天候不良による野外フェスの中止が多かったためか、観客のTAICOCLUBにかける期待や気合いは、ひときわ大きかっただろう。会場へ向かい人々の様子や、充実した装備からもそれを伺えた。それに応えるように、雨の予報にも関わらず大きく天気が崩れることがなかったのは幸運だった。参加者全員がやぶはら高原の環境を満喫できただろう。フェスにせよパーティーにせよ、続けるということにかかる力は大きく、また大きなパワーを生み出すものでもある。シーンを取り巻く状況も含め、タフな状況が続いているが、それでも継続し、やり遂げる決断をしてくれたスタッフには賛辞を贈りたい。今後も、TAICOCLUBは音楽好きにとっての恒例行事であり続けてくれそうだ。
RA