Anthony Naples - Mad Disrespect EP

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  • その称賛すべき過去の歴史や、近年とみに国際的な色彩を強くしているそのパーティ・シーンを鑑みると、やはりニューヨークはいまもダンスミュージックの世界地図において重要な位置を占めていることはまちがいない。この街のプロモーターたちは地元のアーティストたちも育てつつヨーロッパのテクノ・シーンとリンクしたパーティを毎週末のように繰り広げてきたとはいえ、このニューヨークというある種特殊な街においてそれを定着させることは簡単なことではなかった。そうしたヴァイブはJFKやニューヨーク経由で空輸できるようなものではない、ということだ。 まともなヴェニューの不足やパーティには最適とは言い難い都市インフラ、高い物価などにもかかわらず、この都市にはいくつかの良心というべきものが息づいている。ブルックリンの片隅にあるロフトでパーティをはじめたJustin Carter & Eamon Harkin(Mister Saturday Night)の2人はまさに正真正銘ニューヨーク産のホームグロウンなタレントと呼ぶべきで、控えめでありながら他のどこにも無いパーティを作り上げている。彼らはこれまでにもMotor City Drum EnsembleやFour Tetといったビッグネームとも競演しているが、そうしたゲスト抜きでも彼らのパーティは常に満員だ。ニューヨークに住む人々の心の琴線に触れる何かを、彼らはその特質として持っているということなのだろう。 そんな彼らのパーティから生まれたレーベルの1枚目のリリースは、ベルリンやロンドンのプロデューサーでもなく、つい最近まで彼らのパーティで踊っていた1人にすぎなかったAnthony Naplesという男による作品だ。そのパーティ同様、決して根本から革新的なものではないにせよ実に彼らのパーティらしさというものを十分に表現したレコードだ。3曲収められたトラックのなか、タイトルトラックとなる"Mad Disrespect"はソウルフルかつレイドバックしたトラックで、まさしく午前2時のMister Saturday Nightのフロアを思い起こさせるものだ。同時に、暖かさのなかにロウな感覚が内包され、ユニークでもありながら親しみやすさを持った彼のキャラクターはこのEP中の随所で貫かれている。 "Slackness"ではパーカッションにおける彼の明らかな才能が浮き彫りにされていて、複雑な輪郭を有したドラムとヴォーカル・ループは蜘蛛の巣のように広がって踊らずにはいられない。ざっくりとした質感の、"Tusk"グラインドするキックは驚くほどタフなオープニングを見せるが、夢見心地のようなコードが押し寄せてそのインパクトを絶妙に和らげている。全体的にみても、このEPは非常に過不足ない仕上がりだと言える。ほかのどこにもないブルックリン産ハウスを垣間みる一端として、「Mad Disrespect EP」はより多くのオーディエンスの注目を浴びることだろう。
RA