Burial - Kindred

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  • Burialはクラブミュージックというフィールドの中で敬意を払われているアーティストであるが、本人はシーン、そしてダンスという部分から常に身を離して活動している。流行が激しく入れ替わる中で、彼の音楽が長期に渡り愛されてきた理由はそこにあるのだろう。Burialの音楽は「今何が起きているか」、「次に何が来るか」ではなく、「何があったのか」という視点から表現されている。つまり、「昨晩」が鳴り響く音楽であり、慢性的に耳の奥で鳴っている音を辿っていくと辿り着くような音楽だ。Burialのファンであることは、イギリスの生み出すマイクロトレンドや策略を掴んでなければならないというわけではない。自分にとってクラブに行くことが、ただの遊びやドラッグ以上を意味するという音楽を愛する人に対しては、彼の音楽は真実を語ってくれるだろう。彼の音楽とは、「音楽への愛」なのだ。 Hyperdubから多数のシングル、そして2枚の素晴らしいアルバムをリリースしているBurialは、深い喪失感という文脈を使って、音楽への愛情を表現している。処女作HDB001から、突如発表されたかのように感じられた『Street Halo EP』に至るまで、Burialの潜在意識の中で長年ひっかかっていた「元型」である独特のグルーヴは消滅へ向かっての漂流を続けていた。しかし、その漂流はこの衝撃の最新作『Kindred』で終わりを告げる。瞬間的かも知れないが、彼の作品から消え去ってしまったと思われていた「現在」がそこにあるのだ。間違いなく『Untrue』以降の彼の作品の中で、最も野心的で重要な作品と言っても構わないだろう。 “Kindred”はBurialを長年聴いてきた人たちにはお馴染みの雷雨からスタートし、悲しげなコードが濡れた路上に響き渡るが、雷鳴だと思っていた音が、実は都市全体が揺れる音だということにすぐに気付くことになる。Burialの特徴である微妙にずれたドラム音と、激しいベースが生み出すグルーヴは、最初は怒りに満ちた形で耳に飛び込んでくるが、天使のような歌声が入ってくることで、その怒りはかき消され、不穏な空気が(一時的とはいえ)消え去っていく。11分を上回るこのトラックは叙事的で素晴らしい作品だ。リスナーに囁かれているような感覚を与えながらも「悪」を扱っていくという、絶妙のバランス感覚を持つアーティストだということを明確に表している。 “Loner”は「大雨」の音が全体を通じて盛り込まれているものの、Burialの作品の中では最もフロア向けなトラックとなっている。”Street Halo”でも似たような4つ打ち的なアプローチが取られていたが、今回の“Loner”では、より激しく明確な形でそれが表現されており、オリジナリティ溢れる作品となった。また“Ashtray Wasp”では再び11分以上に及ぶサウンドジャーニーが展開されるが、寂しげでごくありふれた風景が幸せな気分を侵食していき、サウンドジャーニーというムードが蒸発していく。このEPは1曲目のスタート時と同じような轟音と細かいノイズで締めくくられており、Burialの今までの作品の中では、最も絶望的な終わり方をしていると言えよう。その悲しさや嘆きは以前よりも明確な形で表現されているが、リスナーと共有するものというよりは、もはや感覚を超越した何かとして表現されている。
RA