人間の人格が形成するのは、30代になってからと言う。同じ事がトロントでのエレクトロニックミュージックシーンそしてダンスクラブカルチャーにも言えるだろう。カナダ1の大都市でのエレクトロニックミュージックは、ここ30年の間で大きく成長してきた。

レイブが再骨頂だった時期、トロントは北アメリカの代表的なクラブ都市という存在だった。1995年から2001年まで、世界の中でもトップと呼ばれるDJ達が毎週末2万人という観客の前でプレイしていたのだ。しかし、そんな時代も長くは続かなかった。

時間が経つに連れて、この最悪な結末はポジティブな方向へと向いてきた。シーンが小さくなってしまった事で、トロントの音楽シーンの復活のためにアーティストやプロモーター、音楽に関わる人達の考えが変化していったのだ。クラブシーンの活動が、地元の人たちの手で行われ始め、イベントを盛り上げるために海外のDJ達に頼るのではなく、地元のアーティストたちによってシーンを形成する必要性をトロントは感じたのだ。現在ではトロント出身のArt Department, Austra, Azari & III, Crystal Castles, Egyptrixxや XIが国際的にも大きな注目の的になっており、トロンロのプライドを世界に見せつけている。トロント発のプロダクションがスタジオから雪崩のように溢れ出ている一方で、多種多様な地元のDJたちもクラブでのヘッドラインとして大忙しだ。

Toronto's many faces: Egyptrixx, Art Department, Austra, Crystal Castles.

人口550万に及ぶグレイタートロント地域には、クラブを求めに来る観光客も多く、クラブ自体の賑わいも安定している。アンダーグラウンドそして商業的なものが綺麗に融合しており、ダウンタウンの中核には、大小異なる様々なクラブが隣接している。

「トロントのエレクロニックミュージックは、ひとつにまとめられないなぁ。」と言うのはKenny Glasgow。Art Departmentの片腕かつ90年代初頭からウェアハウスにのめり込み、テクノレイブシーンにも精通している地元の音楽シーンではベテラン的存在だ。彼は笑いながらこうも説明してくれた。「サイズは異なれど、ここには何でもあるんだよ。」

彼の言う通り、プロダクションに関していうと「トロントサウンド」と呼ばれるものはないようだ。ここからリリースされる作品の多くは、様々なインスピレーションを混ぜたものという印象だ。モダンクラブミュージックの生みの親でもあるデトロイト、シカゴ、そしてニューヨークといったアメリカの都市から影響を受けており、距離的にも近いためDJ達やプロデューサーなどの行き来も多い。また、イギリスの旧植民地であったカナダが、ニューウェイヴやゴス、レイブといった英国発のものからも大きな影響を受けているのも驚くことではない。

とりわけ、トロントは地球上で最もマルチカルチャーな都市だ。トロントの人口の半分は海外出身で、道を歩けば100カ国もの言語が聴こえてくるだろう。これが結果として音楽プロダクションにも影響を与え、クラブの数も街の規模から想像してもらうよりも遥かに多い。「文化の多様性も、シーンの発展に大きな影響を与えているよ。」とDJでありアンダーグラウンド系のクラブ／ハブWrongbarのオーナーでもある Nav Sanghaは語ってくれた。「ドラム＆ベース、ハウス、ダンスホールそしてレゲェ、別々のジャンルでありながら相互に影響し合っているだろう？DJも同じで、様々なジャンルに触れたいと思っているんだ。アメリカの都市でも多様なシーンが存在しているけれど、トロントは、シーン、そしてコミュニティーの多さだけでなく、皆が一つになっているんだ。北アメリカの市場があまり良い兆しでない今、トロントはとても重要な都市になっているよ。ここ5年でそういう事をひしひしと感じできているし、クラブミュージックの歴史を辿ってもらえば、この街がいかに重要なのか分かるはずだ。」

トロントのダンスクラブカルチャーは、1981年にオープンした、アフターアワーの定番にもなった Twilight Zoneを皮切りに始まった。Twilight Zoneは8年間も続き、ディスコ、ニューウェィブ、ヒップホップファン、そして特にゲイ、ストレート関わらず全てのハウスミュージックファンでフロアーは毎週末満杯だった。Twilight Zoneには、現在のハウス界の重鎮達も多く招かれ、Frankie Knucklesもその中の一人だ。一年に一回開催されるアニバーサリーパーティーは現在でも行われている。80年代後半、そして90年代前半にかけて、アンダーグラウンドなウェアハウスシーンの人気は爆発した。プロダクションやインディーレーベルを通してトロントの音を世界に見せつけた時代でもある。 Nick Holder (DNH), Peter & Tyrone (83 West), Dino & Terry (Crash), The Stickmen (Stickman), Nick Fiorucci (Hi-Bias), Matt Dimaria AKA M1 (Jinxx)や、後期には Mario J そして Kenny Glasgow (Method 11:11)などが例の一つだ。

The Method 11:11 team: Kenny Glasgow and Mario J.

ウェアハウスと同時にレイブシーンも盛り上がり始めた。多くのレイブ系イベントのプロダクション会社がほとんど全てのシークレットロケーションを保有する中、 23 Hopは当初ハードコア/ジャングルシーンでの重要なスポットだった。イベント会社がイギリスの大物ジャングルDJやMCを招聘、地元の人気者DJ Dr. No, Mystical & SniperそしてMarcus Visionaryも参加し、トロントにおけるジャングル／ドラム＆ベースシーンは、イギリスの次に大きな規模となったのだ。Visionaryは現在でもトロントで最も人気なDJ兼プロデューサーの一人で、定期的にDJとして活動しているが、彼のプレイはブレイクビーツからソカ系（トリニダート・トバゴ発祥のポップサウンド）のガレージ、ベースサウンドまでと幅広い。

政治的プレッシャーや、警察による取り締まりも強化されたせいで、レイブシーンは、一気に収縮してしまう。それと同時に、Tribe Magazineによる今でも人気のあるメッセージボードや、Sumkidの Om Summer Solstice Festivalや World Electronic Music Festivalなど新しいプロジェクトも続々と登場してきた。

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90年代初期のダンスクラブでもあるRPMは、世界的にも名を知れた1万人を収容できる規模のクラブ兼コンサート会場だ。 1996年、The Guvernmentになった。週末には大勢の観客が押し寄せ、トロントのナイトライフのバイタリティーともなっている。地元の強豪そしてキーパーソンでもある土曜日のレジデント DJ Mark Oliver とは別に、DJ Tiesto, Deep Dish, Pete Tong, Carl Cox, Paul Van Dykなど海外からもビックネームを招聘し、週末の夜を切り抜け、成功にまで導いた。 The Guvernmentを「素晴らしい功績だ」と Nav Sanghaが語る。「皆が皆好きではないと思うけれど、北アメリカ、行ってしまえば世界中でもあんなに長い間成功しているクラブはないと思うよ。とにかく経営の仕方がとても上手なんだ。」

Derrick May playing at Industry.

アンダーグラウンドハウスやテクノシーンも、1996年にはナイトクラブIndustry Nightclubという形で公の場に姿を表し、シカゴやデトロイト、地元のアーティスト達に絞った内容であった。IndustryのレジデントDJだったKenny Glasgowはこう語ってくれた。「Industryがエレクトロニックダンスミュージックに特化したクラブとしてオープンした時、初めてトロントにもこういうシーンが確立したって世界に知らしめた感じだったよ。クラブ自体のサイズが小さい事もあって、アンダーグラウンド系ダンスミュージックの文化を皆に楽しんでもらえるような空間が作られた瞬間だったね。」

DJ Sneakがシカゴからトロントへとロケーションを変えた理由も、Industryの存在があったからだ。「テクノ界のパイオニア的クラブIndustryのFukhouseっていうパーティーがあって、プロモーターであるIan Guthrieや Adam Marshall, Jeff MilliganやJeremy Caulfieldといった地元のDJ/プロデューサーを向かえ、 90年代半ばから終わりにかけてテクノシーンがもの凄く盛り上がったんだ。」とGlasgow。「デトロイトが近いこともあって、なかなかトロントのアイデンティティーっていうのが築けなかったんだけど、今ではあの時代に活躍していたアーティストは、彼ら独自の音を使って、世界中を飛び回っているよ。」

レイブファンでもあり、今では Azari & IIIのメンバーとしてウェアハウス界の先陣を切っているDinamo Azariは、昔の話に触れながら話てくれた。「Jeff Millsの6つのターンテーブルを使ったプレイを間近で見れたのは、本当に素晴らしい事だったね。フロアーを音で支配してしまうDerrick Mayのプレイや Mark Farinaの紳士的プレイ、 Sneakの攻撃的かつ自信たっぷりなプレイ、デッキの所で彼らがプレイしている背中を見ながら、音に酔いしれるオーディエンスも同時に見れて、ただただ素晴らしかった。」

トロントでのハウス、テクノのアンダーグラウンドシーンは、2000年８月のIndustry閉店をきっかけにスピートが落ち始めた。それと同時に、トロントでも重要なトレンドが90年後期から00年前半に生まれたのだ。ダウンタウンが広がったせいで、市議会による住宅地区などの区画制度が決定され、結果として廃墟と化した工場地帯に悪名高い‘エンターティメント専用地区’が制定されたのだ。その当時、地域住民は指で数える程しかいなかった。

法律が制定されてすぐ、大小含め数多くのベニューがその地区に身を置くようになった。大部分が商業的なダンスクラブである一方で、ポストレイブファンの天国とも言えるSystem Soundbarのようなアンダーグラウンド好きが集うホットスポットも登場し始める。7年間、Syetemはアンダーグラウンド、テクノそしてドラム＆ベースの為の空間としての役割を果たしたのだが、デベロッパーによって売却される結果になり、2006年1月1日にその幕を閉じてしまったのだ。その頃になると、エンターティメントディストリクトは成功の傍ら、自滅の方向にまで進んでしまう。何百ものパーティーが郊外に移ることで、郊外の市民への妨害や、酔っぱらい、凶器持ち込み事件などのせいで、警察の取り締まりも厳しくなる結果になったのだ。素晴らしいどころか、音楽などに焦点を当てるチャンスもなくなっていったのだ。

"トロントのクラブシーンでは、様々なものを色々と組み合わせたり、実験したりすることに怖じ気づいたりしないんだ。他の都市だったら、伝統的なアプローチを重んじるところをね。 " – Noah Pred

そう、音楽に対してのビジョンと情熱を持った人たちによってオープンされたクラブには親近感が湧く。ハウス界のベテランからも支持される2フロアーから出来ているトロントのクラブと言えば Roxy Bluしかない。ウェアハウス感漂う場で、アンダーグラウンド系アーティストのラインナップ、Roxyはレイブや商業系クラブからは一目置かれるような存在になっていった。Kruder & Dorfmeisterのトロントでの初めのパフォーマンスはRoxyであるし、J Dillaも2002年に出演、ハウスDJ Joe ClaussellやDennis Ferrerはヘッドライナーとして幾度も登場した。Roxy Bluのパーティーでも特にひと際目立ったのが、レジデントDJ としてPaul E を迎えていたBump N' Hustleだ。LppesそしてMike TUll、Solid Garageとオタク（コアな）集団Groover Institueも、Roxy Bluにロケーションを移しシーンを盛り上げている。

Top: The mirrorballs at Footwork.
Middle: Nav Sangha, the man behind Wrongbar.
Bottom: The Comfort Zone: Where clubbers start, end or bookend their weekend in Toronto.

Footwork Barは間違いなくハウスとテクノに特化したトロンロのベストベニューだ。2005年にオープンし、最強のハウス、そしてテクノ系プロモーターを伴っている。内装は、ライトニングはシンプルでありながら踊る空間としては理想的で、クラブに迎えられるラインナップは地元のDJやプロデューサーが多い。

週末のFootwoekには、 Derrick Carter, Jimpster, Steve Bug, Carl Craig やPlastikmanのような海外からのDJの他に、トロントのアーティスト、No.19のNitin やテクノの重鎮 Jamie Kidd 、そしてGreg Gow Jelo や Deko-zeなどが夜を賑わせている。「Footwoekでブッキングされるアーティストはバリエーションに富んでいながら、パーティー自体の質もとても良いんだ。」そう語るのはFootwoekの経営者の一人 Smye AKA DJ Baby Joeだ。「それぞれの好みがあるから、毎回最高なパーティーという訳にはいかないけど、色々な音楽が好きな人にぴったりの場所だよ。」

Luv This Cityという名で知られるFootwoekの金曜日のパーティーは、トロントDJを中心に開催される一方、土曜日には地元のDJだけでなく海外からのDJもゲストとして呼んでいる。Footwoekは何人ものDJ/プロデューサーにとってかけがえの無い場所となっていて、 FootwoekのDJブースで成長してきたと言っても過言でもないJelo, Jonny White, Carlo Lio そしてJames Teejもまたその中の一人だ。深夜2時、トロントのクラブでアルコールの販売が終わってしまう時間になると、音楽のバリエーションも富み、冒険心満載な内容となっていく。

トロントを訪れるクラバーなら、大抵のベニューが Yonge Streetとして知られている、街の西側の外れに位置されているのに気づくであろう。ダウンタウンの中核にいても、目的の場所が分からなくなる事も多い。The TTC（トロントにあるバス、トロリー、電車といった交通機関）を利用するのが一番お得だ。終電は深夜1時半頃だが、トロリーやバスは24時間動いている。TTCのデイ／ウィークリーパスを使えば更にお買い得だが、お金に余裕のあるという方には、タクシーを使う事もおすすめする。バーなどが閉まる時間帯でもある深夜2, 3時を除けばタクシーもつかまりやすく、初乗り4.25$で、メーター方式だ。

ラッキーな事に、様々なクラブやバー、ラウンジへも歩いてはしご出来る距離だ。 Parkdale（West Queen Westの意味。）は、貧困層の地域でありながらも文化的に富んだ場所となっていたが、2004年にオープンした The Drake Hotelをきっかけにトレンディーなスポットへとたちまち変貌を遂げたのだ。地元のDJを多くそろえたラウンジ、屋上の他に特に注目したいのは、冒険心に富んだ、地下に潜むThe Drake Undergroundのフロアーだ。月一で開催される Evening Standardは、 Woolfy やJamie Jonesがゲストして呼ばれるなど注目のイベントだ。その他にもThoughtless MusicではプロモーターであるUnderdog や92bpmが Mount Kimbie、Gold Panda、Jimmy Edgar、Daedelus そして Brainfeederのメンバーなどを招聘している。

The Darke Hotel近辺にあるホットスポットとして言及したいのは、先日閉店してしまった、かつてはハウス、エレクト、ベースミュージックで注目を集めていたベニュー The Socialと、Nav Sanghaによる Wrongbarだ。共に、良くも悪くも Parkdaleを変えていった存在だ。週末には多くの人が集う場所へと変化し、有名人も多数、音楽とダンスを求めて足を運ぶような場所だ。概して言えば、こういったバーは、地元のアーティスト Thunderheist, VND/LSM (現 AutoErotique), Nacho Lovers、そして彼らのレーベル Fools Goldの仲間でもある Jokers of the Scene により、エレクトロそしてエッジーハウスのグラウンド・ゼロと化した。

2008年初期に開店した Wrongbarでのフルサウンド、激しいベースそして丁度良い大きさのスペースは、プロモーターたちにも人気だ。中でも人気なのが毎週水曜日に開催されるダブステップそしてベース系のイベントだ。レジデントDJとして Zeds Dead とKillabitsが入り、 Aloe Blacc から Damian Lazarusまでと幅広く、Julio BashmoreでさえもがWrongbarのステージに立っている。Footworkのように、クラブはサウンドとシーンを作り上げるためのハブになっている。「ラインナップは、折衷的なものを目指しているんだ。（様々なスタイルの中から最高であると考えられるものを選ぶこと）」というのは、DJでありながら、パンク、ファンク、ソウルバンドまでをもブッキングしてしまうSanghaだ。

Parkdaleからもさほど遠くない所にあるのが、 Bathurst westから Ossingtonにかけて広がるCollege Street。そこには、バーやレストラン、そしてストリップクラブなどが建ち並んでいる。Little Italyとも呼ばれるこのエリアでの週末は、クレイジーなものになった。
ベストスポット40に入るものとは別に、このエリアで音楽的に人気なものと言えば、4つ打ちサウンド、ハウスミュージックだ。2階建ての可愛いらしいスポット Revivalは、ソウルフルハウスまたはガレージの二手に分かれる場所で、人気パーティー Do You Love House? と Solid Garageが開催されている。向かえ側に位置するのは、DJだけでなくライブも行う The Mod Club Theatreだ。 Embrace Productionsのパーティーでは、エレクトロ色が濃い Arcade Fridaysや、収容能力もある質の良いステージが備えられているMod Clubを使ってBooka Shade, Modeselektor そしてTrentemollerなどもゲストに呼んだ。

CollegeとSpadinaの角は、Chinatownと Kensington Marketの端っこに位置しており、アフターアワーのダンスクラブ The Comfort Zoneがある。元はBuzzがあった場所で、90年代後半に開店し、CZ（クラブThe Comfort Zoneの通称）の軸でもある、よく考えられた言わば真面目なパーティーをスタートさせた。ドラッグなどの問題で一時停滞したCZだが、今では大きなサウンドとダンスに的を絞ったイベントを行っている。ハウステクノにクロスオーバーした注目のブッキングも展開している。中にはFootworkでもプレイするDJ達も出演したりするが、ここでのセットはよりダークでヘビーな印象だ。

OssingtonとDundasの交差点でも沢山のバーやナイトクラブが目につくが、トロントの中で最もクリエイティブなハウス、テクノのイベントを行っているのは、営業許可書を取っていない場所だという。イベントプロダクションチーム Promise のメンバーの一人Irving Shawはこう説明する。「きちんと確立した場所ではない所でやりたいという声がたくさんあるんだ。僕が思うに、僕たちのシーンの素晴らしい所は、へんぴ又は注目されていないような場所を利用して何か面白い事をやりたいという人が大勢いる事だね。」

多くのウェアハウスやロフトが取り壊される中、Promise men ShawやDavid Macleodは昔ながらのレイブスタイルに工夫を凝らしたものを行っている。2000年以降、ウェアハウスパーティーからクラシックなアンビエント系イベントまで開催されている。
彼らによるSunday Cherry Beach Partiesは、ハウス、テクノ、ダブそしてダウンテンポ系のDJ達のブッキングの他にも、市議会から許可をもらった、水沿いの伝説的フリーアウトドアパーティーだ。

様々な障害がありながらもBox of Kittens, milkrun や breakandenterといったプロモーターコミュニティーのお陰で未だウェアハウスとテクノシーンは栄えている。 breakandenter のメンバーでもあるErin Bergは、「トロントにいる誰もが最先端の街を目指していて、最高な時間を過ごしたいと思っているのよ。」と説明してくれた。「あと、そういう事を思っている人の多くは、トロントが未だ保守的な街だと感じていると思うの。何か政治的な境界を拡げようという存在が出て来ると、彼等はとても支持してくれるの。早朝5時に素晴らしいサウンドシステムの中で質の良いテクノサウンドを聴く200人が、トロントの街に害をもたらすなんて思っている人がいると思う？」

限界と思われている境界を越えようという気持ちと、朝までパーティーをしたいという思いが一つになり、トロント発のエレクトロニックミュージックの突破口が開けた。Art Department とAzari & IIIは、10年にも渡り様々なプロジェクトに参加をしたり、曲の制作をしてきた。彼等のユニークなサウンドは、過去にあったトロントのウェアハウスパーティでだけでなく、今の若者達にも浸透している。彼等のような地元のアーティストたちは、地元だけでなく海外でも注目の的になっている。レコードレーベルを通してアーティスト間のネットワークが広がったり、コラボレーションを行う事が今一番重要な事になっているようだ。

「No.19みたいに地元のレーベルではもっと色々な事をしているんだよ」と指摘してくれたのは、 Wrongbarの Sanghaだ。「Art DepartmentやNo.19のメンバーが世界中をツアーしているけれど、皆トロントを拠点とするエージェント Most Wanted Entertainment の元で活動しているよ。インフラ状況の中、今こそが違いを見せつけるときだ。」同様に My Favorite Robot, Restructured, Roots and Wings そしてRawthenticといったレーベルも一丸となって動いている。一つのレーベルが突破口を見つければ、他のレーベルも立ち上がるというわけだ。

Noah Predが設立した Thoughtless Musicも印象的な例の一つだ。Predの持つアーティスト達の大半は海外からだが、 Talal & Zoi, Repair, Co-Op and Arthur Oskanを含む Torontoniansをリリースしたりして地元の才能あるアーティスト達をサポートしている。「音楽的に、オープンな人が多いんだ」とPred。「Egyptrixxなんかはテクノ、ハウス、ダブステップやら聴いているし、トロントのクラブシーンでは、様々なものを色々と組み合わせたり、実験したりすることに怖じ気づいたりしないんだ。他の都市だしだったらあり得ないと思うし、伝統的なやり方でやっている都市が大半だと思うけどね。」

「トロントの音楽の花は開花し始めたんだ。ハウスだけではなく、MSTRKRFT, Crystal Castlesや Egyptrixxなんかもそうだ。」と、Dinamo Azariも言っている。彼もまた David Psutka, AKA, Egyptrixxとのコラボレーションを予定している。「誰もが自分の持つ境界をより大きく拡げようとしているんだ。とても良い事だと思うよ。」

20年間、トロントのエレクトロニックミュージックシーンに関わっているDJやジャーナリストは、トロントのルネッサンス（墜落から復興への過程）を経験していると言っても間違いではないだろう。ここで作られているワクワクした独創的なサウンドを全てチェックするのは、ほぼ不可能になってきた。beat-bender XI,インディー系ダンスホールデュオ Bonjay,ワープ系ヒップホッププロデューサーThe Weeknd, テクノ・ハウスプロデューサーBasic Soul Unit そして Nacho Lovers などのアーティストは氷山の一角に過ぎない。

最近まで、トロントの人たちは、地元のシーンに気を配っていなかったようだが、今ではトロントに対してのプライドと自身が顕著に見えてとれる。Art DepartmentのKenny Glasgowもそう感じているようだ。「トロントで今起こっている事にとっても興奮しているよ。」とGlasgow。「Azari & IIIなど、安っぽい音楽ではなく良い音楽を作ろうとっていう人たちが大好きなんだ。 James Teejなんかも今人気上昇中だよね。遊びに行って、彼の名前を聞かないときはないよ。すごい嬉しいんだ。もっとトロント出身のアーティストが世界に出てくれたらと思っている。例えば、ドイツにあるPanorama Barで、Adam Marshallが僕の隣でプレイしているとかね。トロントのアーティストが世界で活躍しているのを見るのも嬉しいし、もっとそんな機会が増えたらと思っているよ。」