インターネットの時代に突入し、情報の行き来のスピードが増している現在、あまりにも多すぎる情報に困惑する人も多いだろう。一方、外へ繰り出せば、生の情報を見てとれることもある。そういった機会が多い都市があるのも事実だ。クオリティーの高い新聞、ラジオ局、情報にアクセスの良い環境などがある場所だ。

ドレスデンは残念ながら、そういったラッキーな都市には入っていなかった。第二次世界大戦で結成された連合国の拘束から解放された後、街はゆっくりと再構築され、東ドイツの主要都市の1つとまでなった。もくろみがあったのか無かったのかは分からないが、谷に近い事もあってこの街は東ドイツ当局にとって最もアクセスのしやすい場所でもあった。ライプツィヒへとラジオ、そしてTV電波が流されていたか？そんな心配は必要ない。80年代90年代初期にはデモンストレーションのホームであった事も、偶然じゃない。ドレスデン？ドイツではTal der Ahnunglosen（タル　デー　アヌールーゼン）とも呼ばれている。つまり謎ばかりの谷だ。

しかし最近ドレスデンは、奇怪な谷と呼ばれる事が多い。ドレスデンを拠点とするUncanny Valley（ドレスデンのあだ名と同じ）は、多彩なアーティストのコンピレーションアルバムを４つリリースしており、カテゴライズしにくい存在となっている。ハウス、テクノ、ダウンテンポ、アシッド。それら全てが Uncanny Valleyから発信されるサウンドだ。また、数えきれないくらいのアーティストたちとの会話を通して、僕の知っている事は氷山の一角に過ぎなかったことを知った。

Most (but still not all) of the the Uncanny Valley crew.

Uncanny Valleyのウェブサイトでは、レーベルの作品を見ることができる。たった4つのリリースにも関わらず、アーティストたちの数がおびただしい。「ここのエレクトロニックミュージックシーンはずっと栄えていたよ。ただ、皆それぞれ活動の場所が違うだけだ」とBreak SLが説明してくれた。「Credit00とIdealfunの皆は、Robodance Partiesっていうエレクロ系パーティを、Stefen（Sandrow M）はDeocureの皆とパーティーをやったり、The Morodersはディスコナイトをやっていた。僕も友人と一緒にWe Likeっていうハウスとジャッキンビートのパーティをやっていたよ。High Finesseもドラム＆ベースのパーティをやったりと、言ったらきりが無いな。」

Uncanny Vallyをきっかけに、最近はそんなバラバラだったメンバーがひとつになった。Albercht Wasserslebenは「Jakob Kornと僕はドレスデン内で何かコミュニティみたいなものが必要だと思ったんだ。音楽プロジェクトやアート、パフォーマンスなんかをやる様々な人の為のね。以前プロジェクトを立ち上げようとしたんだけれども、あまりにも規模が大きすぎで失敗に終わった。Conradに相談をしたんだけど、このアイディアにとても疑問を持っていたみたいだ。何か安定したものを作る為には、ゆっくりと進行していくべきだとも言っていた。けど、数ヶ月したある日、僕らはドレスデン郊外にあるBungalowdorfキャンプ場で開催されるフェスNachtdigitalにDJとして招待されたんだ。ConradとPhilipp（The Morodersという名でConradとDJをしていた）そして僕はベルリンのBerghainの前でMoodymannが回す、というから外で列に並んでいた時だ。その時レーベルを作る話や、それをフェスティバルという形で開催したいなんていう話をしていた。
フェスティバル前にリリースをする事を目標に、彼等はドレスデンのアーティストみんなに連絡をしたんだ。 Jacob Korn, Break SL, Cuthead, Thomas Fröhlich、エレクトロニックミュージックを作る人なら全てにだ。 Fröhlichはこんなエピソードを語ってくれた。「Altes Wettbüroっていう地元の地下にある場所でミーティングをしたんだ。僕たちが、レーベルを設立したいっていうフレーズを聴いたとき、まるで恋に落ちた気分だったよ。レーベル名は、皆で意見を出し合って決めたんだ。公になるまでに、ミーティングを4回位したよ。で、Jakob Kornのアイディアが通ったんだUncanny Valleyという名前でね。」
「ラッキーな事に、レコードは無事フェスティバル前に出来上がったんだ。」とWasserlebenが付け加えた。

Jacob Korn

SoundCloudでは、Nachtdigital FestivalでのUncanny Valleyメンバーのセットを聴く事ができる。彼等のジャンルに捕われない、オープンな精神を垣間みると思う。このジャンルレスな集団はドレスデンでの音楽シーンの小ささを理由に生まれたとも言える。ドレスデンには、誰しもが行くレコードショップFat Fendersがある。Backstock Recordsというショップもあったが、数年前に閉店してしまった。その店で働いていたというSpunkyは、Hombress DiscoというデュオをTinyと組んでいる。
それぞれのシーンがとても色濃く根付く土地であり、Break SLもそれを認識している。「Spunkyの働いていたBackstock Recordsと、Fat Fendersのお陰でドレスデンのシーンは成り立っていたんだ。コミュニケーションと音楽的教育の場だったからね。ドレスデンのシーンや音が一体どんなものかを知りたければ、Fat Fendersに昼から行って、そこで時間を潰すといい。」Uncanny Valleyの4度目のリリースでレーベルデビューを果たしたSneakerもまた首を縦に振る。「Tinyは様々なスタイルを表現しているよ。多くの人にとって、彼こそドレスデンの音だと思う。」

Panomara Barでのイベントを最近閉めたTinyとSpankyはレコードに名を刻まれた事がない。多くの人から尊敬されていたにも関わらず、注目の矛先は序盤に回していた二人のDJ、Jakob KornとBreak SLに向けられた。DollyやPhipotからリリースがある二人だったからだ。Jakob Kornはユニークなモダンかつメロディックでディープなハウスサウンドを展開、一方Break SLは、Sandrow Mと共にC-Beamsとしてパフォーマンスした。Break SLのDJの中にSandrowのキーボードが鳴り響く。

Sandrow Mの即興キーボードもあり、彼等は素晴らしいペアーだ。彼らのパフォーマンス中に気づいたことがある。レコード上に点が書かれていたことだ。「イベントの前に少し練習をするんだ。新しいレコードを聴きながら、ディスカッションをする。そして即興をしてみる。でも、クラブのイベントはライブと違って、始めから終わりまでコンセプトを持って演奏することは難しいんだ。自発的な要素があるからね。あなたが見たレコード上のマークは、キューポイントや、ハーモニー、スピードが変わる所なんかを目で分かるように入れたんだよ。」

Jakob Kornは、Panomara Barで見事な一時間に及ぶライブパフォーマンスを行い、その夜のスターとなった。彼は、今年の夏デビューするアーティスのEPも手がける予定だ。 Conrad Kadenによれば、これは意識的決定だったという。「僕たちは様々なプロデューサーを世間に紹介したかったんだ。今では多くの新しいアーティストを紹介してきたから、今後はアーティストのEPやコンピも作っていくよ。まだまだ注目されるべきアーティストは沢山いるからね。」

Conrad, Albrecht and Carl: The trio behind the everyday operations of Uncanny Valley.

Alberch Wasserslebenは、様々なアーティストによるEPがどういった形で編集されたか説明してくれた。それはインスピレーションになるようなフィードバックの過程から出来上がったコラボレーションだという。「コンピレーションごとに、僕たちは、Dropboxのデモフォルダーに参加している人たちを集めるんだ。15人〜20人ものプロデューサーのデモを聴いて話をする。多くの人がレーベルに関わる事で、ジャンルを越えたリリースが出来ているんだ。」これらの努力の結晶として、Sneakerによるエレクトロ、CVBoxのアシッド、ダウンテンポのBreak SLの兄弟Stefan Lohseなどが輩出された。

このような作品がドレスデンという土地から出ていることが時には欠点でもある。例えば三階建てのSektor Evolutionでの彼等のパーティは少し大き過ぎるといった印象を持った。 Altes Wettbüroはそれに引き換え小さすぎるし、ニュースタッドエリアに立地しており、時間そして音量制限など厳しい取り締まりがある。Fat Fendersのように、地元のDJやプロデューサーから長い事注目されていたクラブGalerie Diskoもあったが、2009年に閉店してしまった。「クラブHigh Finesseを経営していたクルーが新しいロケーションを探しているんだ。」とConrad Kaden。「今はSektor Evolutionでやっているよ。様々なジャンルを一晩でやりたいときは最高さ。フロアーが三つもあるからね。僕たちは、地元のダブステップ系クルー、Sub Sickness と High Finesse とも一緒にイベントをやったりするよ。でも確かに、丁度良いサイズのクラブがないのは本当だね。」Credit00は嘆きとも感じられるように「Glaerie Diskoがなくなったことは本当に恋しいよ」とも言っていた。
彼等の地元に対するフラストレーションは未だあるけれども、ドレスデン外の人々から遂に注目されはじめたのだ。Uncanny Valleyによるセカンドリリースでは、Jacob KornがKelli Handと組み、ドレスデンとデトロイトのコラボレーションを行う予定だ。「Dance Away」はHandをフィーチャーし、デトロイト出身有名アーティストの名を叫ぶ。そこから、彼女がドレスデン出身のアーティストの名を叫ぶ。「Thomas Fröhlich. The Moroders. Albrecht W. Cuthead. Sandrow M」。聴いたことも、見た事もないような名前も出て来たが、彼等が一体どんな音を掲げて世に出て来るのか待ち通し限りだ。

Uncanny Valley Mix

今月のレーベルショーケースはUncanny ValleyからC-BeamsことBreak SL、そしてSandrow Mitzschke。このデュオは今回特別なエディットやおなじみの曲とのコレクションをお届け。

Download: RA Label of the Month 1106 Mix: Uncanny Valley
(right click + save target as)
Filesize: 84.3 MB
Length: 01:13:42

トラックリスト
Cinematic Orchestra feat. Roots Manuva - All Things to All Men (Ninja Tune)
Andrés - Step to the Side (Mahagoni Music)
Eddie C - November 30 (7 Inches Of Love)
Karizma - Early Rize (R2)
Scene from Blade Runner; Music by Vangelis
Credit00 - Wave Memory (Uncanny Valley)
Theo Parrish - Timeislafinacharunninout (Sound Signature)
Sneaker - You Think You Think (Uncanny Valley)
Ike - Ribbons (Philpot)
Theo Parrish, Osunlade, Rick Wilhite feat. Billy Love - Blame It on the Boogie (Still Music)
Andrés - Skate Palooza, Detroit USA (Mahagoni Music)
Hair - Blances (United States Of Mars)
C-Beams - One (Smallville)
Jacob Korn - She (Iron Curtis RMX) (Uncanny Valley)
Farben - Kursbuch 1 (Faitiche)
C-Beams feat. Tina Slotta - Strollin (Uncanny Valley)
Gadi Mizrahi - So Addicted to You (Double Standard)
Kassem Mosse - Untitled (Workshop)
Soulphiction - Midnight Funk Infinity (Philpot)
Stefan Lohse - Plätschern (Uncanny Valley)
Matthias Reiling - Interlude (Interview with Eyedea. RIP) (Giegling)