独自の世界観が反映されたハイクオリティなトラックを武器に、日本のダンスミュージックシーンの注目を集める若き才能SEKITOVA。インターネット世代の利を上手く生かしながら、テクノ、ハウスのみならずEDM、ビートミュージック、アニメカルチャーとも積極的に交わり、自らの音楽の精度を高めている。その姿勢からは、彼と彼の居るカルチャーが決して閉鎖的なものではなく、周囲のムーブメントを繋ぎ、飲みこみながら進化しているものだということがわかる。14歳でトラックメイクを始めたという彼は、気鋭のネットレーベルMaltine RecordsからのEPでデビューし、2012年には大阪のインディーレーベルMindCircus RecordsからCDシングル「Inverted QualiaE.P.」を発表。そして同年の暮れには自主レーベルZAMSTAKを開設し、アルバム『premature moon and the shootingstar』をリリースした。また、楽曲制作のみでなく、DJとしても目覚ましい成長を遂げ、地元大阪のみならず、各地の大箱小箱、様々な舞台でギグをこなし、さらには大型音楽フェスBig Beach Festivalへの出演も決定。多忙な日々を送っている。この躍進ぶりにも関わらず、SEKITOVA本人は至ってマイペースに現在の状況を楽しんでいるようだ。今回行ったインタビューでも、力強く未来を見据える意志と、実直で示唆に富んだ言葉が綴られていた。

SEKITOVAというアーティストネームの由来は何ですか？三国志の呂布の愛馬「赤兎馬」をイメージしてしまいますが。

インターネットで使用していたハンドルネームのまま流れ流れて…という感じです。特にこだわりはなく、ハンドルネームを決める時にふと視界に入ったのが赤兎馬だったことと、友達の弟の名前が「セキト君」で、彼が一時期三国志のゲームにはまっててずっと自分の事を赤兎馬と呼んでいたのをそのとき思い出してつけたのが由来です。ジャンルに合ってない感じもするのですが、TerranovaとかJazzanovaっぽいし別に良いかなと最近開き直っています。

テクノやハウス含め、音楽好きな家庭で育ったと聞いたのですが、ダンスミュージックを好きになるまで、どのような変遷を辿って来たのでしょうか。

もともとは家でただ流れていただけで、殆どの場合、自分にとっては風の吹く音やら家族の足音やらと同レベルの物でしかなかったんですが、中学に入るくらいの頃、上で出て来たセキト君の家で彼の親がDaft Punkの『Discovery』を流してて、「そういえばこれ家でも流れてたなぁ。これ他とは違って好きだったなぁ。」と思い、そこから音楽に自覚的な興味を持つようになりました。今ではまた違う意味で風の吹く音や誰かの足音はダンスミュージックと同じレベルですよ（笑）。そういう無常の環境音というか自然音って、結構テクノだと思います。

Sekitova

世代的に、パソコンや携帯電話などの情報機器に子供の頃から慣れ親しんで来たと思うのですが、その恩恵を受けていると思いますか？

意識的にも無意識的にもその辺の恩恵はとても大きいです。僕より上の世代だってそれぞれその時代の発明品に恩恵を受けて来たはずです。

またTwitterやFacebookなどのSNSツールは、あなたにとって重要なものですか？その他SoundcloudやYoutubeについてはどのように思っていますか？

宣伝とか、なにをするにしても今は軸としてSNSが真ん中にあるので、割合としてはとても重要と言えます。形態はなんにせよ、モノのハードルが下がる事は基本的に良い事だと思っていますよ。ただしそうなると「発信する事」それ自体には価値が無くなってくる。これまではそのハードルの高さがある種モノのクオリティの担保になっていた面もあると思うので、発信する側も受信する側もハードルの低下に相関してモノそのものに対する目というか、リテラシーを向上させる必要があると僕は思います。そういう意味では諸手を挙げて賛成というよりは、一応バランスを見つつならば…というスタンスです。

「それぞれがそれぞれのジャンルに対して
色眼鏡で見てるような雰囲気が
まだ少なからずある気がしてならない」

Apple Garagebandが現在も制作の中心機材ということですが、その理由は？これからシステムをアップデートしたいという欲求はありますか？

最初にさわったのがgaragebandだったので…他のDAWも持ってますし触ってはいるんですが、どうしても操作がgaragebandとごっちゃになってしまって、全然上手くいかないんです。

楽曲制作で最も重視していることは何でしょうか？また自分なりのトラックメイクのコツなどがあれば。

作ってる曲の方向性にもよりますが、パソコンの中でしか息が出来ないような曲にはあまりしたくないと思っています。パソコンで作ってるからなおさらそこに挑戦したいというか。コツのほうは…あんまりトラックメイクに関して人にどうこう言える立場じゃないですが、強いて言うなら頭振ってダンスしながら作るのが一番いいと思います。スタジオの中ならダンスしても逮捕されないし。

現在はおおまかにディープハウスに括られる音楽をリリースしていますが、他にやってみたい、作ってみたい音楽はありますか？

僕は今やってる事をとくにジャンルとしてつくってる訳ではなくて、やりたい事をしてたら最終的にディープハウス的サウンドになりましたって感じなので、そもそも「他」とかそういう区別があまりないんですよ。根底にはテクノっぽい精神とかがいつもあるので、とにかくもっと自分の理想に近付いた音を出せるようになりたいです。ファンシーでノスタルジックな音が出せるようになりたいですね。

あなたの楽曲にある種の物語性を感じることが出来るのは、やはり「ファンシーでノスタルジック」な音への憧れがあるからなのでしょうか。（本、映画、アニメ等で）自らの理想を表現しているような作品があれば教えてください。

まさに聞き手がなにかしらのストーリーや情景をイメージしてくれる事を狙ってつくっているので、そう捉えていただけて光栄です。僕の理想の世界観っていうのはまさしく僕らが生きているこの世界そのもので、この世界をどう見るか、どう映すかという部分に注力しています。例えば僕が好きな作品で言うと『The Animatrix』に収録されている森本晃司監督作品のbeyondとか、エストニアのアニメーションスタジオ、Joonisfilmの作品やら巷にあふれる絵本の数々なんかが挙げられる訳なんですけれども、それらもこの世界からつくられるからこそ面白いと思ってしまうんです。仮にJeff Millsが本当に宇宙人だったら、それはそれで興味深いですけど、今の彼の魅力とはまた違った見え方をすると思う。彼はあくまで地球人であって、地球人でしかないからこそ彼の宇宙に対する興味、憧れ、アプローチが今の魅力を成していると思うのです。

デビューして以来、特にアルバムを発表してから「ティーンエイジャーのトラックメイカー」という点で注目を浴びることが多いと思うのですが、そのような状況に対して何か感じることはありますか？

基本的にはそれはそれで別に良いのですが、やっぱり中には年齢と内容を混同して肩書きだけで評価される事もあるので心象として難しい面もあります。そういう評価の混同って先にも言った、ハードルとリテラシーの話で、ハードルの低下にリテラシーが追いついてないってことですよね。そういうリテラシーが追いついていない場合は別として、「基本的に別に良い」というのは、大体の場合は今後の成長を見越して注目してもらってるとか、ただ僕の方に振り向いてもらう機会が増えただけでそのあとは実力次第とか、そんな感じなので僕自身はあんまり気にせず自分のやりたい事をやり続ければ良いだけだと思ってて、そういう意味での「別に良い」です。

ちなみに、同世代のトラックメイカーで注目している人はいますか？

ジャンル違いだけれども、そして注目というよりかはもはや自分の一部のような存在ですけれども、banvoxなんかは既に国内をぶっちぎるクオリティでスゴイです。あとは先日Day Tripper RecordsからアルバムがリリースされたMadeggくんとはいつかリミックスしたりされたりの関係になりたい。今は同年代という括りの中での話ですけれども、両者とも年齢を抜きにして尊敬出来るアーティストです。

先日あたなのDJを観たのですが、CDJ-2000とUSBメモリでDJを行っていましたが、他の方法（ヴァイナル、PCなど）でDJを行ったことや、これから移行する予定などはありますか？

やっぱり持ち運びが便利なのでUSBが使える環境（曲の販売ソースもふくめて）であればUSBを出来るだけ使いたいです。でも「これじゃないと出来ない」みたいなこだわりは特にないのでその場にある機材にあわせてフォーマットも変えていますよ。とはいえ最近はヴァイナルを使う機会も減って、この間久々にさわったら大分ヘタクソになってたのでちょっと特化して特訓したいです。どうしても使いたい曲がヴァイナルだったとき、自分の技術のせいで使えなかったらもったいないですし。

トラックメイクのみでなく、DJとして現場に立つことにも注力していますが、その理由や醍醐味を教えてください。

楽しい！そこに尽きます。トラックメイクも楽しい、DJも楽しい。勿論プレッシャーも感じますけど、そういうのも含めて楽しさだと思います。とくにDJだとレコードとかCDとかいつでも同じ音がでるアイテムを使っているのにフロアは毎回雰囲気や様相が違って、二度と同じ場はつくれないってところがより顕著に出ていて不思議で楽しいです。

ライブには興味がありますか？

今はノートPCを持っていないので、やりたくても出来ない環境にあるのですが、興味は前々からかなりあります。

あなたはいわゆるハウス、テクノを愛好する層が出入りするクラブのみでなく、アニメソングなどのイベントにも出演しています。個人的にはまだまだ互いに交流できていない層だと思うのですが、どのように感じていますか？

人の好き嫌いもあるので「交流すべき」とは全く思いませんが、「いつでも交流出来る」環境にする必要はあると思います。それぞれがそれぞれのジャンルに対して色眼鏡で見てるような雰囲気がまだ少なからずある気がしてならないので、そこからは解き放たれるべき時期に来ているはずです。アニメソングしか知らない人がテクノやハウスを好きになって、気付いたらそのアニソンオタクとめっちゃタトゥー入った厳ついテクノジャンキーが同じ音楽を聴きながら肩を組んでいたりするような世の中になれば面白いですよね。

前の質問とも関係するのですが、今現在のオーディエンスに向けてより良いものを提示することと、より広い層に自分が行っているようなスタイルの音楽を浸透させること、どちらが理想で、また自分の活動はどっちに比重が置かれていると思いますか？

後者です。ただし、前者が出来て初めて後者が成り立つ物と考えています。今は後者に走りすぎるばっかりに、一番大事な「自分が本当に広めたかった事」がおざなりになっている事がとても多いと思っています。宣伝はあくまで宣伝であって、本質との橋渡しでなければならないはずです。橋渡しであるはずなのに、橋そのものにブランドがついて、結局橋の利用者が本質までたどり着けないということがどれほど溢れかえっている事か。

Maltine Recordsも、冗談めいた部分もありつつ、異なる要素、異なるシーンを接合し、再活性を促しているレーベルですが、あたなにとってはどのようなレーベルですか？また、数多のレーベルの中でMaltineから作品を出すこととなったきっかけも教えてください。

知った当初はレーベル自体に憧れがあったというか、自分の中で日本のネットレーベルといえばMaltineっていう感覚があってその延長線上に「憧れ」があって、リリースがあったのですが、最近は専らレーベルオーナーのtomadさんの方に強い興味がありますね。tomadさん自体が結構インターネット的というかなんというか、それがMaltineにもそのまま表れているんだとおもいます。難しく言うとリゾーム的というのかな。アクセスに関して障壁がなくて、どこへでも手を伸ばせるので自然とそのまま色々接合されたものがアウトプットできるんだと思います。あんまり具体的に言えなくて申し訳ないです（笑）。視点的には自分の実績が残るレーベルって感じではなくて、単純に気になる存在ですね。リリースはもう先に言ったように憧れがそのままリリースに結びついたって感じで。実は3回デモを送って2回落とされてるんです。3回目、自信がないのもあってMaltineは考えずに思ってつくっていた曲を知り合いの方に聴かせたら「Maltine行っちゃえよ」って言われて、その場で送らされて、それが結果的にリリースにつながりました。

これからのヴィジョン、目標は？

もっともっと僕の好きな事をみんなにも好きになってほしいです。あとはもっと根本的なクオリティを上げる事。それから日本のこの手のジャンルにもスゴイDJやアーティストは沢山いるので、彼らや彼らの音楽、パーティが点ではなく線として、そして確固たるカルチャーとして評価されるように僕も頑張りたいです。

TwitterやInstagramで唐揚げについて尋常ではないこだわりを見せていますが、その理由とエピソードがあれば。

長くなってしまうかもしれませんが大丈夫でしょうか…例えば、クラブミュージックはテレビ番組のBGM等でよく使われてたり、意外にも生活の中で流れている事が結構あるんですね。ここ数年でクラブ文化の事が好きになった人は特に実感として良く解ると思うんですが、まだなにも知らなかった頃は、生活の中に紛れてるクラブミュージックを聴こうとしなかったと思いますし、下手したら生活の中でクラブミュージックが流れてた事に気付かないと思うんですよ。それが、クラブに興味を持って、テクノならテクノを聴き始めるうちに、ニュース番組で意外とテクノを耳にする機会が多い事に気づき始めるんです。バンド音楽で言えばベースがそれに相当するのかな。そして、僕にとって言えば、それこそが唐揚げだったという訳です。唐揚げというのはことさら日本では本当に日々の生活に溢れていて、食べた事ない人なんて殆ど居ないはずですが、あまりに普通過ぎて、興味を持つ機会っていうのが逆にないような状況に追い込まれてしまっていると思います。僕もそのうちの一人で、唐揚げはよくある風景の一部でしかなかった。僕の認識を哲学っぽく改めると、それは風景であって、唐揚げではなかったんです。唐揚げを食べておいしいなぁと思うのも、ただ単に日常の体験にたいする感想であって、唐揚げに対するそれではなかったんです。それが、日本唐揚協会の存在がきっかけに唐揚げに興味を持つようになり、ある日きちんと唐揚げと向き合い、味わってみると、とたんにその美味しさに心を打たれてしまったんですよ…よくある話で、親が存命中はなんとなく感謝はしつつ、それは特別な事ではないんですけど、一人立ちしたり、子育てをしたり、親が亡くなったり、要するに何かしらのきっかけでその存在の有り難みに気付くというか、親は凄いということを再認識したりするでしょ？そういう事が、僕の中で唐揚げに対して起こっていたのです。

これが僕の唐揚げにこだわるようになった理由とエピソードです。出来れば今現在のこだわりについても話したいところですが、そこまで言うと本当に長くなってしまうので、続きは直接僕に聴きに来てください。