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インダストリアルテクノの革命
インダストリアルテクノの革命

Karenn、Surgeon、Truss、Percたちがインダストリアルテクノの復活について語る。

UKの空気には何とも言えない独特の臭いがあるが、それは決して良いものではない。アンプがオーバーヒートした焦げ臭さ、長年の使用で痛んだスピーカーのコーンのくすぶる臭い、汗の臭い、小汚いカーペットに染み込んだ古臭いタバコの臭い、物がひしめく地下室や朽ち果てた倉庫の醸し出す臭い。この中のいずれかなのだろう。





しかし、それが何であるにせよ、消臭剤をいくらふりかけたところで消える物ではないことは確かだ。2012年のUKでは、AnDとMPIA3が原始的な激しいレイブテクノに対し思い切りの良い挑戦をし、またPerc TraxがForward Strategy GroupやDead Sound & Videoheadなどのリリース、そしてPerc本人による強烈なアシッドテクノトラック“Pure & Simple”を通じてレーベルの持つ凶暴な美学を追及した。更にはSurgeonとRegisのBritish Murder Boysが華麗なる復活を遂げ、ShitedとVentressが運営するレーベルAvianが攻撃性の新たな次元を切り開き、Blawanが若い世代にキックドラムの太さの重要性を新たに説いたのもこの年だった。こうして2012年はUKのインダストリアルテクノ復活の年となったが、2013年もその勢いは続きそうだ。

そのインダストリアルテクノの復活を最も明確に語っている存在は、Jamie RobertsとArthur CayzerによるユニットKarennだろう。JamieはBlawanとして、そしてArthurはPariahとしてそれぞれダブステップシーンでソロキャリアを積んできたアーティストであり、Hessle AudioやR&Sといったガラージ/ハウス系ハイブリッドサウンドを主とするレーベルからリリースを重ねている。しかし、最近のBlawanはよりダークな方向へと突き進んでおり、作風は2011年の“Bohla”のようなものから、独自の地下テクノ的な要素が強いものへと変化している。そしてKarennではその方向性を更に突き進めており、昨年2人が運営するレーベルからリリースされた彼らのセカンドEP、“Sheworks 004”には異質なアナログテクノが6曲収録されており、どのトラックも90年代中盤の薄汚れたインダストリアルテクノを想起させつつも、それを大胆に解釈し直した作品となっている。しかし、何よりも驚きなのは、この手の音楽を聴くオーディエンスの存在だろう。彼らはポストダブステップから移ってきた層であり、彼らは「テクノ」を新鮮な音楽として捉えているのだ。

では、Blawan とPariahにとってもインダストリアルテクノは新しいものだったのだろうか? それとも常に自分の中にあったものなのだろうか? その質問に対してBlawanは次のように答えている。「俺たちは元々インダストリアル的なバックグラウンドを持っているんだ。ダブステップやガラージ的な音楽よりも影響としてはむしろ大きいね。Cabaret Voltaireは俺にとって大きなターニングポイントになった。彼らを通じてThrobbing GristleやFad Gadgetを知ることができたし、テクノにも入っていくことができた。インダストリアルとテクノの間には密接な関係がある。あとはポストパンク、インダストリアル、ニューウェイブ。これらも全てテクノと関係している音楽だ」

この話を聞いて、私はかつてRegisことKarl O’connorがポストパンクとインダストリアルをテクノに持ち込んだレーベルDownwardsを思い出したが、実際BlawanとPariahもバーミンガムの誇るRegisやSurgeon、Femaleなどのサウンドを敬愛していることを公言しており、その影響はよりインダストリアル的なトラック、例えば荒々しいサウンドが特徴的な“Clean It Up”などに特に色濃く表れているが、オリジネイターたちの薄汚れた音像や、タイトにコントロールされている凶暴性、そして革新的な方向性などの特徴は彼らの作品全体に見受けることができる。よってSurgeonが彼らのサウンドをサポートしているのも当然の話であり、BlawanとSurgeonにおいてはTrade名義で今月Sheworksから共作もリリースしている。

Tradeは現時点でSurgeon本人とUKのニュースクールテクノの繋がりが唯一具体的に表現されている活動形態だが、本人はUKテクノが数年前よりも面白くなってきていると語っており、「最近は新しいリリースを使ってDJするのが楽になってきた。全部本当に気に入っているんだ。こういう気持ちになるのは90年代後半なんじゃないかな」と説明する。Surgeonは90年代から00年代初頭にかけてのソロ名義での活動とRegisとのユニットBritish Murder Boys(BMB)の活動によって、新しい世代に認知されているが、本人は彼らが自分の模倣者ではないとしている。「彼らのような新しい音楽には常に(自分とは)別のエネルギーが詰まっているから、個人的には凄く楽しめている。今だからこそ存在できる音楽ではあるけれど、音楽的な方向性が定まっているように感じる。そこが素晴らしいと思うね」

SurgeonとRegisが2008年以来活動を停止していたBMBを今年再始動させたのは、Percの“A New Brutality”からMPIA3の“Your Orders”に至るまで新しい世代の作品の多くにBMBの得意とする凶悪なブレイクビーツ的サウンドが盛り込まれていることを考えれば、適切なタイミングだったと言えるだろう。しかし、Surgeonsは再結成のタイミングは特に考えていなかったとし、「Regisと再び一緒に曲を作り始めたのは純粋に友情から来るもので、他の要因があった訳じゃない。Regisがこの前言っていて面白いなと思ったんだけど、僕たちがBMBをスタートさせたのはミニマルテクノが勢いに乗っている時だったんだ。当時人気があったサウンドと全く逆のことをやっていたのさ」と振り返っている。

しかし、今回は当時とは状況がかなり異なっており、最近リリースされたBMBの「Where Pail Limbs Lieは既に数多くの称賛を得ている。しかしSurgeonは、「BMBは今回全く別の方向性を目指しているんだ。徐々にその方向性はクリアになってきているよ」と語っており、往年の2人を期待すべきではないようだ。





BMBはリリース数こそ少ないが、その強烈なサウンドは非常に印象的であるため、彼らをフォローする新しいアーティストの数も増えている状態にあるが、その中の何人かはPerc Traxを中心に活動している。PercことAli Wellsによって運営されているこのレーベルは2004年のスタート以降バラエティに富んだテクノをリリースしてきたが、ここ数年は新たな方向性を見出しており、2010年頃にWellsが発掘したForward Strategy Group、Sawf、Donor、そしてTrussなどがその新たな方向性を代表するアーティストと言えるだろう。かねてからWellsは広義的な意味での「インダストリアル」のファンであることを公言しており、実際に90年代のインダストリアルテクノのアーティストたち、そしてオリジネイターである70年代と80年代のアーティストたち(Cabaret VoltaireのRichard H. Kirkはリミックスを提供している)を抱えている。またそのインダストリアルへ向けられた情熱は本人が2011年にリリースした鋼鉄の世界観を持つデビューアルバム『Wicker & Steel』に力強く反映されている他、レーベルのA&Rの方向性にも反映されいる。「オリジナルのインダストリアルにも、90年代のインダストリアルテクノにも同じ美学と考えがあると思っている。サウンド、プロダクション、そしてリリースやプロモーション、パフォーマンスをどうやっていくかという点におけるアティテュードが一緒なんだ。そこにはDIY精神があると思うし、誰かの好みや商売のために何かを変えたり諦めたりしないという意志が感じられる」

最近のPerc Traxのリリース群の方向性の変化に影響を与えたそのサウンドには、ある種の不気味なムードと、UK独特のキャラクターが備わっているように思えるが、Perc TraxのアーティストTrussことTom Russellは、このサウンドを凝縮したような凶暴なサウンドを展開している。過去のTrussの作品に対しては比較的おとなしい印象を持つかも知れないが、2012年にスタートしたMPIA3名義では、新しい方向性が鮮烈に打ち出されている。AvianやR&Sからのリリースで聴くことができるMPIA3の作品が誇る歪んだ音像は2013年現在、スクワットパーティー以外では中々聴くことのできないような代物だ。“Crusty Juice”や“Squatter’s Dog”のようなストレートなトラックは90年代のハードテクノを模した作品がありつつ、“Ridge Way”や“Roly Poly Babs”など他の作品ではモダンなブロークンビート的手法が持ち込まれている。

Russell本人は新たに組んだシンプルな機材のセットアップがMPIA3の作品群を生み出したと説明する。「とにかくベーシックなセットアップなんだ。殆どがハードウェアのアナログ機材だね。だから変化させられるパラメータの数が少ない。でも俺はそこに自由を感じることが出来て、結果的に前よりも多くのトラックを生み出せるようになったんだ」尚、インスピレーションは本人のレイブ経験から得たとしている。「俺のルーツは90年代初期なんだよ。兄弟からレイブミュージックを教えてもらったんだ。当時はジャンルを問わず全てが1本のテープに入っている感じで、それを通じてUK産の初期ジャングル、ハードコアテクノなんかを聴いたんだけど、その時に初めてそういう存在を知った。でも当時の俺はレイブに行くには若過ぎたから、DJの名前だけを憶えていった。Stu Allan、Carl Cox、DJ Druidなんかをね。そこから徐々にレーベルや個々のアーティスト名を知っていったのさ」

Our Circula Soundからリリースされている“Splot”などを聴けば分かるように、Trussの最近の作品のは力強さが増しているように感じられるが、一方で本人は初期作品のような落ち着いた作品も作り続けたいとしている。そして冷たいダブのような空間性を持つトラックと殴打するようなビートのレイブテクノの間を行き交おうとするTomの姿は、マンチェスターの2人組AnDにぼんやりと重なってくる。彼らが自主製作でリリースした“001/0101”のような作品にはTrussに似たエネルギーが詰まっているが、Russellは両者の共通性は偶然であるとし、1年程前にお互いのトラックを交換し始めた時に初めて共通性に気付いたとしている。「俺たちがハードな方向性に向かっていたのは本当に偶然なんだ。同じ方向性に向かっている人間が他にもいるってことを知れたのは良かったよ」

しかし、当然のことながらMPIA3やAnD、そして彼らが関わるこの新しいシーンを中傷する人たちもいる。彼らに対する批判の中で最も良く耳にするもののひとつは、サウンドが古く、90年代に生まれて廃れたインダストリアルテクノに似すぎているという点だ。しかし、Russellはこのような批判を全く気にしていない。「MPIA3は特にアピールしたくてやっている訳ではないし、何かをやり直しているわけでもない。自分が何か新しい作品を作りたいと思った時に、自分が一番ハッピーになれる作品を作っているだけだ。単純に好きな音楽、自分がクラブでぶっ飛びたい音楽を作っているだけさ」一方、Karennは自分たちの音楽と90年代の音楽には明確な違いがあることを強調しており、Pariahは、「古いレコードで俺たちの新作に似ているのがあるかと思って探しているけれど、実際には存在しないね。俺たちは古いテクニックを使って、新しいサウンドを生み出そうとしているってことなんだよ」と説明している。

また、彼らのようなサウンドの凶暴性が合わないと批判する人たちも存在し、例えばX-Press 2はPercの“Purple”に対し、「好きじゃない。ガバみたいだ」というフィードバックを返している。Perc Trax側はこのフィードバックを皮肉としてこのコメントを堂々と引用しているのだが、このフィードバックはこのシーン全体が基本的に厚みに欠けており、また無意味で必要以上にマッチョな音楽だということを指摘していることに変わりは無い。しかし、Russellは再びそのような批判は気にならないとしている。「俺は批判されても何の問題も感じない。批判の通りだと思うし、実際馬鹿げた音楽だと思う。でもそこがいいと思っているし、他のアートフォームより価値がないわけでもないし、アートとの関連性がないわけでもない」また、Blawanも、「プレイできるギリギリの音楽だ」と認めながらもMPIA3を引き合いに出し、「でも誰かが彼のようなトラックを作らなきゃならない。他のスタイルと価値は一緒さ」と現在置かれている状況に対してRussellと似たような自信を覗かせている。

しかし、このような限界ギリギリの音楽がなぜここまで支持を得ているのだろうか? この凶暴性の復活はModern LoveやBlackest Ever Blackなどに代表されるエレクトロニックミュージックにおけるハードネスやダークネスへのシフトと何か関連性があるのではないか、また今自分たちが置かれている世界の影響を受けたものではないかとつい勘繰りたくもなってしまう。また、Ryan Didcuckが、「The New Bleak」という記事の中で述べているように、現在の音楽シーンにまん延する破滅と憂鬱は経済破綻と政治システムの腐敗に幻滅している現代社会を映し出しているのかもしれない。また、WellsがPerc名義で昨年リリースした“A New Brutality”EPのレーベル面にはロンドンにあるブルータリズム建築の作品Trellick Towerの写真が用いられており、この写真が収録されているトラックのタイトル“Cash 4 Gold”(金の現金化)と合わせて考えてみると、そこには政治的なメッセージが浮かび上がってくるようにも思える。

しかし、Wells自身は音楽と政治を結び付けることには慎重な構えを見せている。「俺はイギリス経済の低迷やニューカッスルでアートへの投資がゼロになったことについてのニュースを見てからスタジオに入って、その怒りをテクノトラックにぶつけるようなことはしない。もし政治的に関わるならば、Berghainの客を朝の9時まで躍らせるようなトラックを作るよりも、キャンペーン活動や抗議活動、それに啓蒙活動のような直接的な行動を起こすだろう」





現実的に考えれば、この新しいムーブメントの原因は、あらゆる音楽のジャンルで見られるような美学におけるカウンター、または改革にあると言えるだろう。Wellsは自身の音楽性が荒涼で簡素な方向へ向かった原因のひとつは、ありふれた「ドローンなテクノサウンド」に飽きたためだとし、またRussellも、「アーティストがコンセプチュアルな作品を作ることを目指し、また周囲がそこにより深い意味を見出そうとする今のムーブメントには関わりたくないね。他人がやるのは一向に構わない。でもレイブミュージックは元来そこには関係のない音楽だったと思うし、俺はテクノをレイブミュージックだと捉えている」とコメントし、最近のテクノの傾向を嘆いている。しかし、BlawanとPariahは、今自分たちが追求しているサウンドは、自分たちが生まれ育ったポストダブステップのムーブメントに勢いがなくなったことによって自分たちの中に自然に生まれた探求心によるものだとしている。Blawanは、「ポストダブステップのシーンにいる連中の多くが同じ経験をしているよ。みんなが色々な方向を模索して、他の道へ進んで行っている。だからシーンに少し元気がないのかもな」と指摘している。

彼らが「模索」している方向はどこなのだろうか? AnDやMPIA3に顕著に見られる、ハードさを凝縮したようなサウンドにおいては、その方向性に限界があるように思えるが、AnDはLWEでのインタビューで今後の方向性について次のように回答している。「とにかくハードになる。どんどんハードにね」この発言は、結局今のムーブメントも90年代と同じように燃え尽きて終わってしまうのではないかと危惧する者が多かったこともあり、テクノシーンでは多少話題となった。しかしRussellは彼らの発言を真面目に受け取ってはいけないと指摘し、自分たちがひたすらハードな方向に突き進むことはないとした。「AnDを個人的に知っている人間ならば、そのコメントが冗談だっていうのは理解できるはずさ。だから、ひたすらハードな方向へ突き進むんじゃないかっていう心配はしなくていいと思う。色々な方向性を模索している今の状態は健康的だと思う」またBlawanも、まだまだこのサウンドは生まれたばかりだとしている。「少し時間がかかるよ。まだ始まったばかりだ。自分たちが何をやりたいのかを見極めるにはあと1年はかかるだろうな。俺たちはまだピークを迎えた訳じゃない」

Translation / Tokuto Denda
Published / Tuesday, 19 February 2013

Photo credits /
Truss - Will Darkin
Trellick Tower - Thomas Brauner
Perc - Jimmy Mould



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