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Clubbing in Shanghai
Clubbing in Shanghai

中国の巨大都市、上海にはこれまでクラブ・カルチャーが根付いたことはない。しかし、RAのSanjay Fernandesのレポートによると、その状況には少しずつ変化が生まれているようだ


世界の大都市のなかには、その都市としての性格がかならずしもその国全体のそれを反映していない場所がある。中国に限って言えば、上海はまさにそうした都市だと言うべきだろう。その巨大都市ぶりと同時に、そのヴァイブのユニークさは国内外からここを訪れる人々に悉くカルチャー・ショックを与える。

外灘地区の中央を流れる黄浦江沿いに建造物が立ち並ぶその街の姿は、どこかニューヨークにも似ている。2,300万人もの人口を持つ上海は(その周辺都市の人口を含まなければ)世界最大の都市だ。中心部には17階建て以上のビルが3,000以上もあり、他の大都市と同様、高度に進んだ消費社会のすぐ近くには貧困が隣り合わせになっている。

上海は長きにわたり中国における経済的な最重要地点であり続けてきたが、その経済規模が飛躍的に増大したのは直近のここ数世代における話だ。近代化の兆しは、毛沢東による文化大革命が終結したころにはじまった。60年代中盤から始まった文化大革命は、毛沢東の共産党政権において富裕層が影響を及ぼそうとする動きに対抗する目的で始まった。数多くの文化遺産が破壊され、資本主義的なものはすべて排除され、文化・宗教施設は不用なものとして閉鎖された。この文化大革命では、数百万人もの中国人が拘束・拷問・免職・拘留されるに到ったという。しかし、1976年に毛沢東が没するとその2年後には文化大革命は終結し、それまで失脚していた鄧小平の復活により中国はその伝統文化を取り戻し、目覚ましいほどの速さで経済発展を遂げることとなる。

一般的には、この文化大革命の終結が現代中国における第一歩のはじまりだとされている。眠れる大国であった中国が、いよいよ世界の舞台にその底力を誇示しはじめたのだ。中国の他の都市に比べ、上海で特徴的だったのはその文化や投資の拡大において外国人の資本が多く投下されていた点だ。





上海のエレクトロニック・ミュージックのシーンも、文化大革命の終結にその端緒があると言っていいだろう。毛沢東主席による暴力的な粛正が終わりを告げると、西側諸国の文化や資本が少しずつ流入しはじめ、そのなかには実験的な音楽やメディアもこっそりと含まれていた。ここにおいて大きなインパクトを与えたのが、打口(だこう)CDと呼ばれる一種の非正規流通盤の存在だ。打口という言葉をざっくりと訳するなら、「風穴を開ける」といったところだろうか。表向きには、中国に持ち込まれるCDやレコードはすべて破棄処分されることになっていたのだが、その残骸のなかから拾い出されて闇ルートで非正規に流通される打口CDは、中国におけるアンダーグラウンド・ミュージックの大きな源流となったのだ。



Uptown Records
以前に比べると中国国内における輸入品の規制は緩和されたが、そんな現代においても打口経済はいまだに強烈な存在感を放っている。つまり、中国はいまでも世界中のメディアのジャンク集積場として機能しているのだ。毎年数百万枚のレコードが広州に廃棄のために送られ、世界中のレコード・ディガーの注目を集めている。ある者は格安でトン単位を箱買いし、ある者は1日10時間のディグを丸1週間続けるというハードなツアー計画を組む。上海にあるUptown Recordsには、そうした廃棄処分場から掻き集めてきた膨大な量のヴァイナルがストックされている。この店にはDepeche Mode、Human League、Ultravox、Nitzer Ebb、すべてのBlack Cockエディット・リイシュー盤、Jeff Mills、Happy Mondays、Donna Summer、Ol' Dirty Bastardなど、ありとあらゆるレコードが並んでいる

あきらかに、中国における西洋文化の影響力の割合は誇張されて伝えられている。とは言え、西洋から伝わった音楽に対しては、いまだにある種幼稚な態度を持って受け入れられているのも確かだ。各方面で高い評価を受けたコンピレーション、『An Anthology of Chinese Experimental Music 1992-2008』にはこうした中国ならではの状況が驚きと興奮とともに提示されている。このコンピレーションに付属していたライナーノーツには、こう記されていた。「現実とは何か?そして、良い変化とは何か?文化大革命によってほぼすべての知的芸術的伝統が破壊・断絶されたこの国で、我々は内的/外的の両面からそれらを再興しようと努力してきた。この国は、新世界を発見した子供のように振る舞っている」

上海のクラブ・シーンについても、まず国内と国外の両方の影響を踏まえて考えなければならないだろう。上海で生まれ、上海に育ったDJ/プロデューサー/プロモーターであるマー・ハイピンはこう語る。「問題は、この上海のローカル・シーンを根付かせようとしたらライフスタイルそのものを中国のそれに合わせなければならないという点です。外国人のライフスタイルでは駄目なのです。同時に、西洋の人々が作った西洋の音楽も知らなければなりません。このバランス感覚には非常に神経を使いますね」。彼はMHPという名義を名乗り、西洋風の名前を持たない、かつ英語を話す中国人による小さなコミュニティに属している。MHPは10歳の頃から中国の伝統的な美術学校に学んでいる、典型的なポスト文化大革命世代だ。

2003年頃、MHPは友人の家である一冊の本に出会う。彼はその本のタイトルがどうしても思い出せないと言うが、「その本には黒人の男たち写真が載っていて、すごく興味深い内容だったんです」と彼は語る。その黒人の男たちこそ、デトロイト・テクノのオリジネーター3人衆=ベルヴィル・スリーことDerrick May、Juan Atikins、Kevin Saundersonの3人だった。彼は「この本にはほんとうに衝撃を受けました」と語る。以降デトロイト・テクノに夢中になった彼は、Voidというクルーを結成し遂にはUnderground ResistanceとJuan Atkinsを史上初めて中国に招いた。また、彼らはSurgeon、DJ Pete、Ancient Methodsといったヨーロッパの現代のテクノ・プロデューサーたちも招聘に成功している。

しかし、こうしたビッグネームたちが中国でプレイする際にサポートDJとして活躍し、そのパーティの企画にも関わってきたMHPでさえ、「クラブ・シーン」というものに対してあまり興味はないと言う。MHPはこう語る。「自分がプレイする以外では、ほとんどクラブに出かけることはありません。おそらく、ライフスタイルの問題でしょうね。中国的なライフスタイルの中には、クラブへ遊びに行くという感覚は無いのです」

こうした意見は、おそらくこのシーンにいる他の中国人にとって大いに同意できるものだろう。上海を中心に活動するヴォーカリスト、Cha Chaもその意見に同意する一人だ。彼女は「中国には、クラブ・カルチャーと言えるものはまったく存在しないわ」と身も蓋もなく語る。「こうした文化は、いままでの中国にはまったく存在しなかったの。中国に暮らす子供の一日は、学校に行って、家に帰ってきて、両親と過ごして、お茶を飲んで寝るだけの繰り返しなの。外に出かけて音楽を聴きにいく、という発想すらないのよ」

AM444
Cha Chaは90年代後半頃は貴州に住み、その頃から友人たちと打口カセットテープを貸し借りしていた。上海に移ってからは、6年以上ものあいだ上海でダブ&レゲエのイヴェントを企画してきたUprooted Sunshine Soundsystemで彼女はMCを始める。リリシストとしての彼女の才能に目をつけたKode9は、彼の最新アルバム『Black Sun』において彼女のヴォイスをフィーチャーしたトラックを4曲収録した。その一方、彼女はオランダ生まれの上海在住DJ Jay.SoulとともにAM444というプロジェクトを結成し、そこではダウンテンポ・ブギーとトリップホップ調の中国語ヴォーカルを組み合わせたミクスチャー・サウンドを展開している。彼女たちのデビューEP「Eye Wonder」は中国人アーティストや中国人DJによるミックスなどを精力的に手掛ける地元上海のレーベルPause:Musicからリリースされた。しかし、こうしたレーベルが地元のプロデューサーたちにいくらチャンスを与えようと、依然としてクラブに人が増えるということは無いそうだ。

この問題を打破するためには、地元の中国人DJ/プロデューサーと海外のプロモーター、上海のナイトクラブのほとんどを所有する出資者との間の関係を密接にすることが不可欠ではあるのだが、Cha Chaに言わせると、そうした海外から流入する資本要素はかならずしも持続性のあるものではないという。「そうした資本を持った人のほとんどは外国人だけど、そうした人々は入れ替わりが激しいの。だから、上海のシーンを成長させたいと本当に考えるのなら、ずっとそこに住んでいる中国人の人たちを巻き込んでいくしかないと思うわ」彼女はMHPやB6、Ben Huangといった地元のDJたちと共に中国人独自のパーティを企画しているが、彼女は「でも、新しい若い世代のファンがまったくついてこないの」と嘆く。

こうした矛盾はさておき、Cha ChaとMHPが共通して認識しているのは、こうしたクラブ・シーンの発展においては外国人の存在が重要だということだ。MHPは上海有数のヴェニューを取り仕切るヨーロッパや北米の人々に関連して、こう説明する。「僕が他の中国人プロデューサーやプロモーターに対していつも言っているのは、外国からの影響を受けていることは恥ずかしいことでもなんでもない、ってことなんです」

上海でも有名なヴェニューのひとつ、Dadaは地下鉄の上海交通大学駅の裏通りでひっそりと営業している。金曜日の夜、Stockholm Syndromeのパーティに出向いて店に入ると、スピーカーからはFad Gadgetの"Lady Shave"が鳴らされていた。DJがニューウェーブやイタロ・ディスコをかけていると、ロンドン出身で現在は上海に住んでいるという知り合いから「今プレイしている彼はABC、つまりAmerican Born Chinese(アメリカ生まれの中国人)だよ」と教えられた。こうしたABCと呼ばれる人々はダンスフロアーでもDJブースでも数多くみられるそうだ。そのABCのDJが終わり、次にDJブースに現れたのはイギリス出身のGareth Williams。彼は序盤でShackletonの"Touched" (「The Drawbar Organ EP」収録) をかけると、その後も似たようなトーンでまとめあげていた。やがてフランス人のデュオAcid Pony Clubが登場し、ファンク風味のライブ・ディスコ・セットを披露していた。そのごちゃ混ぜ感の強いラインナップはさておき、Dadaの店内でその音楽を楽しんでいた客の大半は外国人であった。いっぽう、店内では中国人は数えるほどしか見つからず、彼らは隅にあるシートに陣取ってダイスとコニャックを使った中国独特の飲み会ゲームに興じるばかりであった。



"中国には、クラブ・カルチャーと言えるものはまったく存在しないわ。こうした文化は、いままでの中国にはまったく存在しなかったの"
— Cha Cha




他の都市では、Stockholm Syndromeのようなアーティストが出演するパーティとRA Horizonsのようなパーティが同じ夜に開催が被ったとしても、大した問題にはならないだろう。しかし、上海では違う。RAはThe Shelterで開催されたRA HorizonsのためにLevon Vincentを招聘したが、今回のインタビューのために協力してくれたプロモーターやローカルDJ、プロデューサーはそのパーティには遊びに来なかったのだ。彼らはDadaのように安い料金でよりリラックスできる場所のほうを好んでいるようだ。ヨーロッパでは頻繁に見られる、カルト的なDJが小さなシーンで尊敬を集めるような現象はこの町には皆無に等しい。

それでも、The Shelterが上海のエレクトロニック・ミュージック・シーンの強固な基盤であることは広く認識されているようだ。これはDadaとは決定的に違う点だ。実際のところ、The Shelterのようなクラブは上海のみに限らず中国のどこを探しても他に見当たらない。The Shelterのマネージャー、Gareth Williamsはこう語る。「上海にある他のクラブのほとんどは、着飾って出かけるためのスノッブな場所でしかありません。ピカピカの内装に派手な照明、変てこなソファーのね。そんななか、私たちが2007年にThe Shelterをオープンした当時は多くの人々が困惑していましたね。The Shelterにはきらびやかな要素は何も無く、ただ汗にまみれた真っ暗なハコがあるだけでしたから。そこには照明もなければダイスもコニャックもなく、ダンスする以外は何も無い場所なんです」





こうしたダークなミニマリズムこそ、The Shelterの売りだ。エントランスは岩がむき出しのワームホールのようで、コンクリート製の墓地に入り込んでいくような感覚だ。ダークグレーの柱がダンスフロアーの中央に位置しており、低い天井は閉所恐怖症的な気分を感じさせる。そこが第二次世界大戦時には防空壕として使われていたという事実を知れば、なおさらこの場所の不吉な雰囲気が強く感じられるだろう。

このヴェニューはダークな種類の音楽にはまさに相性ぴったりだ。ダブステップやヘヴィー・ベースはもちろん、MHPとCameron Wilsonが運営しているパーティ、Voidでのテクノも充分に機能する。Shanghai Ultra名義で活動するWilsonは、スコットランドから上海に移り住んでジャーナリストとして活動している人物で、2007年からThe Shelterでパーティを企画している。

Wilson自身も上海のローカルなクラブ・カルチャーの定着が「もっとも優先すべき大事なこと」であることは認めているものの、その草の根的な活動を広げることの難しさについてはCha Chaの意見に同調する。Wilsonはこう語る。「ここに住んでいる外国人の大半は、数年もするとすぐに上海を離れてしまいます。中国人でクラブに来る客層は若いのですが、それ以上の年齢層はすぐに就職してしまうのでクラブには遊びに来にくいのです。こうした事情もあり、上海で集客することは難しいですね」

さらに、Wilsonのような外国人のプロモーターは言葉の壁に直面している。ことエレクトロニック・ミュージックの世界に関しては英語がほぼ公用語である一方、中国国内で英語を話せる人は驚くほど少ない。上海での文化やイヴェントを紹介するSmart Shanghaiという英語のウェブサイトがあるが、これを利用するのはいまだ外国人がほとんどだそうだ。Resident Advisorのようなウェブサイトも上海ではほとんど知られていない。外国人プロモーターにとっては、パーティの宣伝のために口コミやフライヤーを活用するほうが簡単なのだそうだ。Williamsに関して言えば、彼のパーティSubcultureのためのオンライン上の宣伝ツールは唯一彼のWordpressブログ(英語版)だけだそうだ。そこでしかゲストについての詳細を得られない事実はともかく、中国国内ではWordpressが検閲により閲覧不可になっていることを考えると尚更奇妙だ(それでも、彼のパーティは毎回The Shelterのキャパを埋めるに充分なほど集客できているとのことだが)。

Dada
このような上海独自の難しさに直面しているプロモーターがもう一人いる。ロンドン生まれのフリーランス・グラフィック・デザイナーで、中国に住んで2年になるというNikだ。彼がDadaで開催しているパーティ、House Soundはしっかりとディレクションされたディスコ・サウンドが楽しめる。彼は主にオンライン向けの宣伝ツールとしてSmart ShanghaiとTime Out Shanghaiの2つを活用している。「僕がやってるプロモーションは、外国人向けにしてるんだ」と彼は皮肉っぽく語る。「あとは、もしかしたら英語に堪能な中国人もいるかもしれないけどね」(でも、その数は決して多くはないはずだ)。「コズミック・ディスコというワードを中国語に置き換えるのは難しいんだ。だから、次回のパーティでは中国人女性が史上初めて宇宙に行ったことを祝うっていうテーマにしてるんだ。中国人の地元の人が遊びに来やすいように、かなりの割合でプロモーションに中国語での表記を取り入れようとしているよ」

彼の行うプロモーションにとって、メーリング・リストは命綱のようなものだ。NikはDingDong Discoを手掛けるヨーロッパ人のプロモーターが膨大なEメール・リストを持っている事を例に挙げる。Nikはそれがパーティのクオリティと集客に繋がるものだと指摘する。彼はLuneでのDaniel Wangのセットが最も思い出深いものだと言う。上海においてダブステップやテクノが似合うヴェニューがあるなら、ディスコにもそうした相応しいヴェニューがあってもおかしくない。Luneは上海のクラブの中では最も豪華な部類に入るヴェニューであり、その清潔で明るい内装はThe Shelterのそれと比べると対照的だ。

上海では、ローカル・シーンに関わる誰もがハードワークを惜しまず、情熱を持ってそのシーンの発展に貢献しようとしている。それでも、その地道な発展は中国全体の急激な経済発展に追いついていないと言える。経済の発展とライフスタイルそのものの変化はかならずしも比例しないものなのだろう。中国の人々にとって、エレクトロニック・ミュージックとクラブ・カルチャーの関係性はまったく存在しないとまでは言わないまでも、かなり希薄なものでしかないのだ(Shoomの存在無くしてアシッドハウスの流行はなかったということを考えると分かりやすいだろうか)。音楽やメディアが若い世代をターゲットにするとしたら、ヨーロッパのユース・カルチャーに深く根ざしているハウスとテクノが中国でも根付かないはずはない。

Williamsは「そうした発展は、僕ら全員が願っているものですよね。中国の国内で起こっている変化はほんとうに目まぐるしく、いつも爆発しそうな勢いなんです。たしかに、シーンの発展と経済発展はかならずしも比例はしていないかもしれません。でも、決して急速ではないものの、シーンは着実に進歩しています」上海の膨らみ続ける人口とその経済規模を考えれば、この都市のクラブ・シーンがアジアでもっとも強力なものに成長しないはずはないだろう。

Translation / Kohei Terazono
Published / Tuesday, 04 December 2012

Photo credits /
Header - Sam Gao
Mao Papercut - History Blog
AM444 - Benoit Florencon
Shelter - Skinni Pants
Dada - Kim Laughton


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