今から2年前のポーランドで、後に『Music for Solaris』となるプロジェクトのリハーサルがスタートした。この意欲的な作品は、2010年にクラクフで開催されたUnsound Festivalで初演を迎え、以降ニューヨーク、レイキャビク、ウィーン、ブダペスト、ベルリン、ブリュッセル、ハーグなど世界各地で演奏されている。そしてその演奏は2人のリーダーと40人の演奏者によって行われている。リーダーの1人はピンやボルトが内部に仕込まれたピアノの演奏を担当。そしてもう1人は真面目な観衆と豪華な照明に囲まれた世界最高と称される多くの舞台に裸足で装飾音を加える。
その2人とは、Daniel BjamasonとBen Frostのことで、この2人が『Music For Solaris』を作曲した。当初のコンセプトは、美しいSFの世界観と形而上学的なポストヒューマンを見事に組み合わせたクラシック映画、1972年公開のアンドレイ・タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』、そしてその原案となったスタニスワフ・レムの小説『ソラリス』に着想を得た音楽を作るというもので、Unsoundがクラクフに拠点を置くSinfonietta Cracoviaに所属する30余名の演奏者に依頼することで、初演が実現した。ちなみにSinfonietta Cracoviaとは、Krzysztof Pendereckiによって創設され、これまでに数多くのアヴァンギャルドな作品に参加してきた歴史あるオーケストラである。
Frostがエレクトリックギターとエフェクターを使い、そしてBjarnasonがプリペアド・ピアノを使って『惑星ソラリス』の音楽を再構築するというアイディアが生まれたのは、クラクフでの最初のリハーサルの7カ月後、つまりレイキャビクで『Music For Solaris』を演奏した2011年夏頃のことで、Frostは自ら「ガス状の雲」と呼ぶ変則チューニングのギターを鳴らし、BjarnasonはJohn Cageのように、小さなネジやピンをピアノの内部にあらかじめ配置することピアノの鳴り方を変えて即興演奏を行った。
そしてこの即興演奏のセッションが終わると、2人は録音された素材を当時の2人には新鮮だったソフト、Melodyneを使って処理することにした。Frostの仕事仲間で、『Music for Solaris』というアイディアの実現に大きく関与したPaul Corleyはこのソフトについて、「このソフトはオーディオ素材を入れることで、そこからノート情報、そしてハーモニーを検出します。まるで黒魔術ですよ。自由自在にオーディオを組み替えることが可能ですから。でもソフトである以上完全な形にはなりません。特にプリペアド・ピアノやエフェクターを通したギターのようは変則的な楽器のオーディオでは検出時に問題を生み出してしまうのです」と説明する。
このような「減少への欲求」は、Brian EnoとNick Robertsonによるビジュアル面にも用いられた。『Music for Solaris』を手掛ける直前、Frostは若手アーティストと大御所が1年間共同作業をするチャンスが与えられるRolex Mentor and Protégé Arts Initiativeへ参加。そこでBrianと出会っている。
『Music for Solaris』のビジュアルには映画のイメージが使用されている。映画の登場人物がモーフィングし、Pieter Bruegelの描いた『The Hunters in the Snow』が暗示的に用いられ、スクリーン上を微妙に移動する色彩面が強調されたアブストラクトな映像が映し出される。そしてある瞬間がくると、画面が一瞬消え、黄色が画面を埋め、これは全ての色が一瞬でパッと燃え尽きたことを意味するように思える。また、この時の音楽の響きは導火線のようにも感じられ、灰のようにも感じられるが、実は音楽ですらないのかも知れない。