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Daniel Bjarnason and Ben Frost: A soundtrack to Solaris
Daniel Bjarnason and Ben Frost: A soundtrack to Solaris

RAのAndy Battagliaが、アイスランドをベースに活動する2人のアーティストが過去2年間に渡って取り組んできた作品の起源と変遷を明らかにする。

「観客の耳に不思議な音として入っていかなければならない。演奏している君たちを見なければ理解できないような感じだよ」Ben Frostがバイオリン、チェロ、コントラバスなどを持ち、いぶかしげな表情をしている演奏家たちに話しかけていた。ここでは彼ら演奏家たちの持つ楽器は、「逸脱した」、または「奇妙な」音を生み出すために使われていた。この演奏家たちは難しい指示を演奏という形でフィードバックする訓練を長年積んできたプロの集まりで、自分たちの能力を理解しているが、今回の作品は彼らにとって今までとは異なる未知の領域だった。

今から2年前のポーランドで、後に『Music for Solaris』となるプロジェクトのリハーサルがスタートした。この意欲的な作品は、2010年にクラクフで開催されたUnsound Festivalで初演を迎え、以降ニューヨーク、レイキャビク、ウィーン、ブダペスト、ベルリン、ブリュッセル、ハーグなど世界各地で演奏されている。そしてその演奏は2人のリーダーと40人の演奏者によって行われている。リーダーの1人はピンやボルトが内部に仕込まれたピアノの演奏を担当。そしてもう1人は真面目な観衆と豪華な照明に囲まれた世界最高と称される多くの舞台に裸足で装飾音を加える。

その2人とは、Daniel BjamasonとBen Frostのことで、この2人が『Music For Solaris』を作曲した。当初のコンセプトは、美しいSFの世界観と形而上学的なポストヒューマンを見事に組み合わせたクラシック映画、1972年公開のアンドレイ・タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』、そしてその原案となったスタニスワフ・レムの小説『ソラリス』に着想を得た音楽を作るというもので、Unsoundがクラクフに拠点を置くSinfonietta Cracoviaに所属する30余名の演奏者に依頼することで、初演が実現した。ちなみにSinfonietta Cracoviaとは、Krzysztof Pendereckiによって創設され、これまでに数多くのアヴァンギャルドな作品に参加してきた歴史あるオーケストラである。





初演を聴いた時の私のメモを見てみると、そこには「ひねくれている」、「不安定」、「落ち着きがない」、「ミスノート」、「建築家ザハ・ハディッドの作品のように、何かを別の場所から俯瞰しているように思える」、「脈を打っているかのようだ」、「不気味」、「目隠しした人間に数日グレープフルーツを与えた後、今度はレモンを与えたような感覚」などと書かれている。

この作品はオーケストラというクラシックなフォーマットで表現されているが、メモの通り奇妙な異世界の音楽だ。しかし、意図的にそう聴こえるようにコンセプチュアルに作曲されている。このプロジェクトの元を辿ると、FrostとBjarnasonの2人が居を構えるアイスランドのレイキャビクに辿り着く。レイキャビクは2人が関わるレーベルBedroom CommunityとGreenhouse Studiosが拠点を置いている街であり、この街ではクラシックとノイズ、アーシーなフォークとシンセポップ、ポロリフォニックでアートなトラックと静寂が同じ目線で捉えられている。

この2人がタルコフスキーの『惑星ソラリス』をプロジェクターで写す中、初めて即興演奏をしたのがこの街だった。Frostは、「Eduard Artemyevのオリジナルスコアは、『惑星ソラリス』というアイディアをSF映画として昇華させ、SF映画としての作品を強調するような音楽だと常々感じていた。確かに公開された当時は米ソの宇宙開発競争の最中だったので、SF的な側面は大きな意味があったと思うし、斬新だったはずだが、時代と共にその価値は薄れてしまった。また、その方向を強調したことで、タルコフスキーが狙っていたはずの精神世界を描くという部分が音楽的に表現できていない。舞台を宇宙に設定したのはある意味重要ではなかったはずなんだ」と語る。

Frostがエレクトリックギターとエフェクターを使い、そしてBjarnasonがプリペアド・ピアノを使って『惑星ソラリス』の音楽を再構築するというアイディアが生まれたのは、クラクフでの最初のリハーサルの7カ月後、つまりレイキャビクで『Music For Solaris』を演奏した2011年夏頃のことで、Frostは自ら「ガス状の雲」と呼ぶ変則チューニングのギターを鳴らし、BjarnasonはJohn Cageのように、小さなネジやピンをピアノの内部にあらかじめ配置することピアノの鳴り方を変えて即興演奏を行った。

そしてこの即興演奏のセッションが終わると、2人は録音された素材を当時の2人には新鮮だったソフト、Melodyneを使って処理することにした。Frostの仕事仲間で、『Music for Solaris』というアイディアの実現に大きく関与したPaul Corleyはこのソフトについて、「このソフトはオーディオ素材を入れることで、そこからノート情報、そしてハーモニーを検出します。まるで黒魔術ですよ。自由自在にオーディオを組み替えることが可能ですから。でもソフトである以上完全な形にはなりません。特にプリペアド・ピアノやエフェクターを通したギターのようは変則的な楽器のオーディオでは検出時に問題を生み出してしまうのです」と説明する。

つまり、元の演奏が意図的に不思議な響きを持たせているがゆえに、Melodyneに入れるとミスノートや実在しないノートとして再現されてしまう時があるというわけだ。またCorleyは続けて、「プリペアド・ピアノの鳴り方は通常とは違う奇妙なもので、正確な音程では演奏されません。ドの音を鳴らしても、例えばピアノの内部の弦の部分に洋服のピンがはさんであれば、変な倍音が一緒に鳴るのです。ですから、Melodyneはドの他にソやファも一緒に鳴っていると考えてしまいます。また、録音に使った空間の共振によって高周波数の倍音も含まれてしまうので、かなり多くの問題が生まれてしまいますね」と説明している。

魔法のようなサウンドプロセッシングであると同時に、その代償としてミスや誤訳が生まれてしまうというこの作業は、宇宙探査に出かけた主人公が宇宙の深淵で、死んだはずの妻の姿に出会ってしまうという『惑星ソラリス』のストーリーと奇妙なことに合致する。宇宙ステーションに現れる奇妙でいびつな死んだ妻の姿は、惑星ソラリスの周囲を覆うソラリスの海の不思議な力によって生み出されているのだ。

「喪失感はこの映画における大きなテーマで、僕がそこに興味を持っていた。全体としての何かを、それが何を意味するかという知識や文脈を無視して扱いつつ、この映画のイメージに基づきながら解明しようというのが僕たちの作品を通じたコンセプトと言える。そして同時にオーケストラによって、ソフトウェアによる解釈や誤訳を人間的な音楽へと変化させるのさ」(Frost)





Melodyneのデータをスコアに書き直してオーケストラ用に編曲するという作業はBjarnasonが担当。結果として、Giacinto ScelsiやAvro Partのような瞑想的なミニマリズムを歪曲させたものに、Frostのギターが要所で加えられる作品となった。

「Daniel(Bjarnason)は音楽におけるボキャブラリーと知識が豊富なんだ。僕も音楽を学校で学んだし、クラシックの知識は持っているけれど、14歳以降はギターとアンプを抱えてNirvanaを聴いているような感じだったから、弦楽四重奏の複雑さなどとは無縁だった。Danielの音楽における数学と文法に対する理解は僕のそれとは大きく異なる。彼は僕の演奏を理解して、それを推定したり、反転させたりすることでスケールを大きくしてくれる。例えば「赤」という表現が30通りに広がるようなものだよ」(Frost)

2人のコンビネーションは、昨年Bedroom Communityからリリースされたこの作品のレコーディング作品『Solaris』で聴くことが出来る。レコーディングはクラクフの郊外にあり、宇宙を思わせるような外観と最高級の設備を誇り、数々の音楽制作と映画のポストプロダクションで知られるAlvernia Studiosで行われた。実際のレコーディングでは、Sinfonia Cracoviaオーケストラがスタジオ全体に散らばるように位置取り、消え去るような儚い音像の表現に注力した。

「オーケストラに出来る限り小さく演奏するように頼むのは大変な作業だ。普通の会話には持ち込むことができない音楽的な方言というか。小声でバーにいるみんなの注意を引こうとするようなものだね」(Frost)





このような「減少への欲求」は、Brian EnoとNick Robertsonによるビジュアル面にも用いられた。『Music for Solaris』を手掛ける直前、Frostは若手アーティストと大御所が1年間共同作業をするチャンスが与えられるRolex Mentor and Protégé Arts Initiativeへ参加。そこでBrianと出会っている。

「僕は映像と音楽の組み合わせが嫌いだと何回も公言してきたのだけれど、Brianがアイディアを持ってきた時、それが僕の悩みに対する彼なりの解釈だと思えたんだ。解決すべき問題に向けた彼なりの解決方法だってね。見事な解決方法を示してくれた。最終的に僕たちが音楽に用いていたアプローチを用いて、情報量を少なくし、削ぎ落としていった。とにかくどんどん少なくしていくというスタイルだった」(Frost)

『Music for Solaris』のビジュアルには映画のイメージが使用されている。映画の登場人物がモーフィングし、Pieter Bruegelの描いた『The Hunters in the Snow』が暗示的に用いられ、スクリーン上を微妙に移動する色彩面が強調されたアブストラクトな映像が映し出される。そしてある瞬間がくると、画面が一瞬消え、黄色が画面を埋め、これは全ての色が一瞬でパッと燃え尽きたことを意味するように思える。また、この時の音楽の響きは導火線のようにも感じられ、灰のようにも感じられるが、実は音楽ですらないのかも知れない。

Translation / Tokuto Denda
Published / Tuesday, 25 September 2012


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