Kerriはその後、まるで超能力者が霊と会話をしようとしているかのように、集中して眉間にしわを寄せた顔でフロアをゆっくりと歩き回った(この時にImaginary Foundation のTシャツを彼が着ていたことはこれとは全く関係ない)。そしてフロアの横に斜めに張られた梁へ向かうと、目を閉じてゆっくりとその梁に手を乗せて、それを掴んだ。彼が一体何をしているのかを問う者はおらず、私たちは少し混乱した面持ちでその姿を見つめるだけだった。やがて彼はiPhoneを取り出すと、スペクトラル分析のアプリを立ち上げ、フロアを歩き回ってレベルをチェックし、「このクラブがどうやっているかは分からないが、正確だ」と言った。そして最後に、この夜は比較的シンプルなセットアップだったため、PC以外の唯一の楽器だった自分のキーボードをチェックした(過去にはホログラムやレーザーハープ、また改造したアーケードゲーム機などが持ち込まれていた)。こう書くと、Kerriは細かいセッティングが必要なDJだと思えるかも知れないが、彼が気にしているのは、オーディエンスがどう感じるかという1点だけだ。「俺がプレイして何かがおかしければ、それはクラブのせいじゃない。俺のせいなんだ」Kerriはそう言うと、宇宙が描かれたTシャツの胸を軽く叩いた。
この一連の作業を見れば、Kerri Chandlerがなぜ長年このシーンで君臨しているのかが理解できるだろう。その理由の1つはこの細部までのこだわりだ。自分のセットの前にブースで1時間も費やすDJは中々いない。そしてもう1つは、その圧倒的な音楽的知識だ。Kerriは地下室に数千枚のディスコレコードが保管された、「各部屋にターンテーブルがあった」という家で育った(92年のアルバム『A Basement, A Red Light, A Feelin’』の由来にもなっている)。この2つの特徴はKerriの家族から受け継いだものだ。サウンドチェックで見られた細部までのこだわりは、科学者であった祖父から受け継いだもので、音楽の知識はDJだった彼の父親から受け継いでいる。そして最初のレコードをリリースしてから20年以上経った今、新たにCirco Locoでの活動を始めており、キャリアにおける第3ステージを迎えている。
俺にはもしかしたら自閉症というか、映画『レインマン』みたいな力があるのかも知れない。クラブに入って、何か変更点があればすぐにわかってしまうんだ。サウンドシステムのドライバでさえもね。見渡すだけで「何かがおかしい。何かが故障している。何かが変わった」って分かってしまう。クラブの人間は「どうしてわかったんだい?」と不思議がるが、「そう聴こえるんだ。このクラブの音がどう鳴るのかが分かるんだ」って感じなのさ。だから俺は直そうとするのさ。でも仮にそうしないで、ぶっつけ本番で挑んだとしたら、「サウンドシステムが最悪だから、俺も酷いプレイをしたに違いない。手入れのされていないレコードか、低質なmp3が原因なのかも知れない」って感じになる。その場合は俺の責任になってしまうってことだ。オーディエンスは、「ここはMinistry of Soundだし」とか、「ここは最高のサウンドシステムなんだ」と言うだけで、誰も「サウンドシステムのドライバが壊れている」なんてことは考えない。