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Donna Summer:特別な女性
Donna Summer:特別な女性

Donna Summer逝去を受け、RAのAlfred Sotoがディスコの女王と呼ばれたそのキャリアを振り返る。


ガールズグループやJanis Joplinに影響を受けたLaDonna Adrian Gainesは、フラワーパワー系バンドのフロントマンを短期間務めた後、70年代初頭に生まれ故郷のボストンを離れ、ドイツへと移住する。そこで彼女はアメリカでは射止めることが出来なかったミュージカル『Hair』の役を獲得し、更にはドイツ版『Showboat』でも役を得ることになった。

新天地でオーストリア人俳優Helmut Sommerと結婚し、Donna Summer(ドイツ語Sommerの英訳)と名前を変えた彼女だが、映画『イブの全て』でBette Davis演じるMargo Channingが蔑んで放つ「五流のボードビリアン」のようにそのキャリアを終えていた可能性もあった。Summerはワインを数杯飲み、友人たちに頼まれてミュージカル仲間のパーティーで“Piece of My Heart”を熱唱することがある一方、家では実現できていない自分の夢を噛みしめていたのだ。その「立ちたい場所の外側に立っている」という気持ちは、のちに初期の傑作シングルの1つ“Love’s Unkind”の歌詞の一節として登場しているが、これは欲望と孤独がダンスフロアを彩っていることを端的に表している言葉と言えよう。

しかし、その後Summerがオーストリア人俳優を捨て、Giorgio MoroderとPete Bellotteと組み始めたのは、欲望と孤独を求めていたからではなかった。実際、GiorgioとBellottteが「アフリカ系アメリカ人の移民女性の欲求と情緒不安」にどう応えたのかはわからない。

彼女がそのMoroderとBellotteと組んでリリースした9枚のアルバムは、その先のダンスミュージック、そしてダンスミュージックへの考え方を定義づけるものだったが、舞台女優とでも言えるSummerは各アルバムを通じてファンタジーの世界に住むお姫様(Once Upon a Time)、エロティックな女性(Love to Love You Baby)、売春婦(Bad Girls)、切れ者の愛人(I Remember Yesterday)、踊れるビートを求めるだらしない女(The Wanderer)など、男性が想像しうるありとあらゆるタイプの女性を埋め込んでいき、“Hot Stuff”では情熱的に新しいファンへアピール、そして1980年にリリースされた『The Wanderer』では古くからのファンを気まぐれにもてなした。しかし、彼女の人気が頂点に達した時、彼女は役を演じることに満足し、神を信じると宣言(キリスト教再生派となる)。Al Greenでさえ見せなかった変貌を遂げてしまうことになる。



Donna Summer Four Seasons of Love cover
Donna Summer Once Upon A Lifetime cover
Donna Summer - Love To Love You Baby cover
Donna Summer Bad Girls cover
Donna Summer I Remember Yesterday cover
Donna Summer The Wanderer cover




1975年に発売されてインターナショナルヒットとなった“Love to Love You Baby”はアメリカのシングルチャートでは惜しくも2位に終わったが、この曲は変幻自在なSummerにふさわしい初めての楽曲だった。オーガズムを感じさせる彼女の声は、それだけではセクシーとは言えない。この曲の素晴らしさは、曲全体を前進させるフックとしてその声を使っている部分にある。17分に及ぶバージョンは70年代のR&Bを追っていくような曲になっており、“What’s Going On”の雰囲気と、“Shaft”を思わせるワウギター、そしてMichael McDonald時代のDoobie Brothersのような細かなピアノフレーズなどが盛り込まれている。

言葉が殆ど使われないSummerのパフォーマンスでは、声と音楽、つまりシニフィエとシニフィアンが溶け合っていく。この革新的なアイディアは、Summerが「ディスコの女王」としてキャリアアップをしていったという意味では非常に重要だ。「ディスコの女王」になるにあたり、Summerは自分自身をそのイメージに組み込んでいくことに対して躊躇しなかった。この時点でのSummerはビートを自分自身に組み込んでいくことに不満はなかったのだ。同時期にリリースされたDiana Rossの“Love Hangove”はスターのパフォーマンスだが、Summerの“Love to Love You Baby”は、優れた舞台女優が台詞を言っている演技だと言えよう。

Moroder-Bellotteのコンビはこの手法を次のヒット曲、1977年の“I Feel Love”で完成させる。この曲は非常に大きなインパクトを持っており、例えば当時ドイツでDavid Bowieと共にシンセサイザーのレコーディングを行っていたBrian Enoは、「このシングルはこの先15年のクラブミュージックのサウンドを変えることになるだろう」とコメントしている。フェイズシフトをしながら重いビートを刻んでいくこの曲は、ゴスペルとダンスミュージックを結び付ける存在であり、神への服従の中に悟りを見出した作品と言えよう。ちなみにその1年後にHarvey FuquaとSylvesterはこの曲を聴き、“You Make Me Feel (Mighty Real)”の打ち込み部分のスピードを上げて、Sylvesterのヴォーカルの持つエロスにマッチするように仕上げている。

“I Feel Love”にはギター、ベース、そしてドラムは存在しない。シンセサイザーとシーケンサーがSummerのヴォーカルに沿っているだけである。そのヴォーカルも高いピッチで歌われており、短い歌詞がようやく聴き取れるようなものだ。ダンスミュージックの歴史において、バックトラックとヴォーカルがこのような見事なバランスになっている楽曲はこれが初めてである。この当時このような楽曲を生み出していたのはKraftwerkとNeu!だけであり、Kraftwerkと同様、“I Feel Love”は冷たく機械のようだと(誤った形で)称賛されることもあるが、この曲のパーカッションが消えてシンセのシーケンスだけになるパートをもう一度聴いてもらいたい。すると現存する音楽の中で、このような霊的なパワーを持った作品は殆ど存在しないということが理解できるだろう。そして『Once Upon a Time』の1曲“Working the Midnight Shift”にもこの表現が当てはまる。この曲はWoody Guthrieの頃から存在するシンガーソングライターが興味を持つトピックをエレクトロニックな形で表現しており、Summerはタイムレコーダーのようなかっちりとした雰囲気を使って、労働者の悩みを描いている。



Donna Summer & Georgio Mororder




『I Remember Yesterday』以降、Summerは「楽曲の歯車の1つ」というアプローチを止め、歌手そしてソングライターとしての自分を押し出すようになる。『Bad Girls』に収録されているヒット曲を書く頃には、Aretha FranklinやBonnie Raittと肩を並べるようなソングライターになっており、他人の作品を忠実に表現しつつ、同時に自分の作品をコントロールするようになっていた。このため、1979年のスマッシュヒットアルバム『Bad Girls』を買った人は、このアルバムにはSummerが単独で作曲したバラードなどが含まれており、未だに賛否両論になっているのはご存じだろう。

このアルバムで“I Feel Love”の続編のような楽曲を探している人にはSide Fourの1曲目、“Our Love”がお勧めだ。この曲では強烈なドラムマシンが女性コーラスの代わりを務め、Summerのヴォーカルを上手く曲の中に落とし込んでいる。ちなみにこの曲のドラミングは後に“Blue Monday”でNew Orderが丸々流用しているが、 “Blue Monday”ではヴォーカルが横柄に楽曲の中で浮いている。これはSummerのヴォーカルのスムースな溶け込み方に対する80年代からの回答というところだろう。また、このアルバムのキラートラックとしては“Sunset People”を挙げておきたい。この曲の重いビートは、Steely Danがハリウッドのリッチなゾンビたちについて書いた歌詞を引き立てている。

キャリアの黄金期を迎えるコンピレーション『On The Radio』(2枚連続で2枚組アルバムを1位に送り込むという偉業を成し遂げたアーティストは彼女が最初で最後だろう)をリリース後、Summerはディスコブームの終焉とタイミングを合わせるようにして、ロック的な指向性を強めていく。他のジャンルに助け舟を求めた、または自分のやりたい方向に進んだとも言えるが、この後の作品は彼女のピーク時の作品とさして変わりは無いクオリティで、充実した内容となっている。Summerの場合は、彼女自身がカルト的存在から脱却してしまったことが評価の上での問題を生んでいる。例えば、誰も1984年の『Cats Without Claws』を隠れた名曲が眠っているアルバムとして再評価していないが、誰かがこのアルバムを聴き直してそれが本当かどうかを確かめることもないのだ。

Summer-Moroder-Bellotteトリオのファンにとって一番興味深い1980年の『The Wanderer』の楽曲群は、当時の最もラウドな音楽を目指したものとなっている。彼女のキャリアで最も風変わりな楽曲、ピッチベンドが多用された“Grand Illusion”では、Summerの声を無限に変化する楽器に変化させており、そしてトリオが“Working the Midnight Shift”をPat Benatarのファンのために作り直したかのような楽曲“Night Life”ではキーボードの代わりにギターのパワーコードが使用され、映画『トップガン』のサウンドトラックのような仕上がりを見せている。また1982年にリリースした、Quincy Jonesのプロデュースによる自分の名前を冠したアルバムでは、強さを増してきたSummerの宗教性が、ニューエイジを“I Feel Love”のシーケンサーと合わせたアプローチの楽曲“State of Independence”に乗せて歌われている。またStevie WonderやDyan Cannonなどの豪華ゲストをコーラスに迎え入れており、“We Are The World”のプロトタイプのようなアプローチがダンスミュージックの枠組みの中で取られている。

Harold Faltermeyer & Donna Summer
Harold FaltermeyerとDonna Summer

これ以降のSummerの作品はもはやダンスミュージックではなく、ダンスミュージックに影響を受けたポップとなっており、時にそのジャンルにおける至高の作品を生み出すこともあった。彼女は“She Works Hard for the Money”で見事なカムバックを見せ、マイアミとニューヨークでヒットしたShannonの“Let the Music Play”と同様、Hi-NRGを見事に理解した作風で1983年の夏を席巻した。また正当な評価を受けなかった1987年の『All Systems Go』のタイトルトラックはHarold Faltermeyerにプロデュースされた作品だったが、この曲では当時ヨーロッパのチャートを席巻していたStock-Aiken-Waterman風ディスコに挑戦している。そして1989年の『Another Place and Time』では彼らと本格的なコラボレーションを行っている。彼女のアメリカにおける最後のトップ10ヒットとなった“This Time I Know It’s for Real”はStock-Aiken-Watermanとの共作になっているが、BananaramaやJason Donovanたちの作品に用いられたHi-NRGのフォーマットを踏襲したこの曲は、Summerにとって“Love to Love You Baby”のような存在感を持ったマニフェストとなり、SummerはBlack Boxのようなイタリアのハウスミュージシャンと競り合う存在となった。彼女は彼らよりも歌うことができ、彼らよりも作品性の強いものとして生み出すことができると胸を張り、そしてそこには愛があるのだと熱狂的に表現していった。

その後、60年代以降の自分が目指していたディスコの女王、そしてVH-1の歌姫という確固たる位置を得たSummerは、徐々に一般層から興味を持たれなくなっていく。彼女の70年代の名曲は引き続きメディアでかかっていたが、それ以上の象徴的な楽曲がなかったこと、そして彼女はダンスミュージックチャートでのヒット曲を生み出していたことがメインストリームが興味を示さなくなっていったことがその原因と言えよう。その中でも1999年にリリースしたAndrea Bocelliのカバー“I Will Go with You”はダンスチャートでナンバーワンヒットとなり、Whitney Houstonの“It’s Alright But It’s Okay”のThuderpussリミックスと共にゲイクラブでプレイされた。また2008年には1991年以降となるフルアルバム『Crayons』をリリースしたが、これは『Bad Girls』がその1年後にリリースされるのではと思わせるようなジャンルを横断するスタイルが再び取られており、彼女の歌声が健在であることを示している。もしAndy Butlerと組んでHercules & Love Affairのシングルをリリースしていたらと思う人もいるだろう。

2003年に自伝『Ordinary Girl: The Journey』がようやく出版されたが、その内容はタイトル通り平凡なものだった。ハリウッドの陳腐さが精神的指向と一緒になっているこの本の内容は薄く、友人とランチをしながら「聖なる予言」について語り合うマッサージ療法士のような軽い口調で綴られている。しかし、愛と喪失、そして神について浅薄な考えを持っている彼女を否定することは、彼女の最も長く愛されている楽曲の重要なポイントを無視することと同じだろう。ダンスミュージックのアーティストとして初めてロックアーティストのキャリア(「進化」などの言葉で表現される)を生み出したDonna Summerはミスを犯し、またその行動を必要以上にもてはやされてしまう運命にあった。しかし、彼女とMoroder、Bellotte、そして数多くの他の共作者たちは知っていた。ダンスフロアに音楽がかかれば、普通の女性(Ordinary Girl)が日常から解き放たれ、特別な女性(Extraordinary Girl)になるということを。




Donna Summer

Words / Alfred Soto
Translation / Tokuto Denda
Published / Thursday, 31 May 2012


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