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優れたサウンドの秘術
優れたサウンドの秘術

サウンドシステムはダンスミュージックの本質的な部分を担っているが、この部分についてしっかりと理解している人は殆どいない。RAのStephen TitmusがFunktion-OneとMartin Audioの助けを借りながら紐解いていく。

私たちの殆どは、素晴らしいサウンドがエレクトロニックミュージックで踊り明かす夜の支柱だということを理解しているだろう。このジャンルにおける音圧、ボリューム、そして解像度は言うまでもなく他のジャンルのそれらよりも重要だ。しかしサウンドシステムが実際どのように機能しているかを知っている人の数は非常に少ない。オーディオオタクの人たちはシステムや機材についてジャーゴンを使いながら話をしており、サウンドは間違いなく「科学」の領域にあると言えるため、これは理解できる。しかし、優れたサウンドシステムと酷いシステムを何が分けているのかについて基本的な理解を得ることはそこまで難しくはない。

サウンドシステムを理解するためにはまずラウドスピーカーから始めるのが良いだろう。素人にとってラウドスピーカーはサウンドシステム上最も分かりやすい機材だ。Martin Audioの研究開発ディレクター、Jason Baird氏は、優れたラウドスピーカーとは「ヘッドルーム」に尽きると語る。Baird氏はこの部分における専門家で20年以上サウンドシステムに携わっており、FabricのRoom 1、そしてGlastonburyのPyramid Stageなど、世界最高と謳われるサウンドシステムの導入に携わってきた。そのBaird氏は、「酷いサウンドにならず、音圧も落ちないままラウドに鳴ること」が良いサウンドシステムへのカギだとしている。

「基本的にラウドスピーカーにパワーを与えすぎると、直線的にサウンドが届かなくなります。ですので、大きなサウンドが鳴るサウンドシステムをデザインする場合は、その点を考慮しなければなりません」




スピーカーが直線的にサウンドを届けなくなり、私たちに対して「歪んだ」サウンドを届けるようになると、スピーカーのドライバーが独特の不愉快な周波数を音像全体に加えるようになる(耳が痛くなってしまうようなサウンドのクラブは、ドライバーの歪みによってサウンドが圧迫されているのがその痛みの理由だ)。ドライバーとはラウドスピーカーの中に組み込まれている装置で、電気エネルギーをサウンドに変換する役割を果たしており、低域はサブウーファー、そして高域はツイーターから出力される。

Funktion-Oneの創設者Tony Andrewsは、スピーカーが上記のように周波数別になっていることについて次のように分かりやすく説明している。「サウンドは10オクターブをカバーしている。そして我々に与えられているのは1オクターブの電球1個だと考えてもらいたい。つまり、1つの電球から光の全周波数を得るのは簡単だ。何故なら1オクターブだけだからだ。しかしサウンドは10オクターブある。そして波長とエネルギー量という意味で1番上のオクターブと1番下のオクターブの差は非常に大きなものになる。また、その1番上のオクターブと1番下のオクターブに対するエンジニアリング的な要求は矛盾しているに等しい。だから、ウーファー、ミッド、ツイーター、または4つ、5つに分けた形になる。1つのスピーカーからサウンドの全周波数を出すことは非常に難しい。何故ならその周波数は非常に幅広いからだ」

全周波数をスムースにカバーするために、スピーカーの製造元はドライバーごとに異なった素材を使用する必要がある。低域には硬くて軽量なカーボンファイバー、そして中域や高域には紙のような柔らかい素材を使用する。優れたスピーカーのドライバーは、電気エネルギーを音声エネルギーに変換するための優れたコンバーターという意味でも非常に有用な存在で、つまり過剰に使用されることがない。このため、前述の「ヘッドルーム」に余裕が生まれ、歪むことなく長時間に渡ってラウドに鳴ることが可能となる。これは客が他のどの状況よりも長時間音楽に晒されるナイトクラブにとって特に重要なポイントだ。



「音響を整えることによってどれだけ多くの差が生まれるかという点はあまり理解されていない」




高品質のスピーカーを入手することがサウンドシステムに対する理解のスタートポイントではあるが、実際はサウンドシステムのほんの一部でしかない。空間の音響が大きな部分を占めるのだ。実際、もし音響環境が悪ければ、最高のスピーカーのサウンドも最悪に聴こえることになる。この点についてはSound-ServicesのRich Cufleyが説明する。

Rich Cufleyはロンドンが誇る複数のアンダーグラウンドパーティーのサウンドシステムを手掛けている人物だ。Ostgut Tonがロンドンを訪れた時にもRichがサウンドシステムを担当した。ナイトクラブとしてデザインされていない空間を扱って、(世界的に有名なDJや口うるさいロンドンのクラバーたちの高い要求に応えながら)それらをまるでナイトクラブのような音響に仕立て上げてきた。

「何も設置されていない空間の場合、そこがどんな形状だろうと、そこで手を叩いた時の残響音(リバーブ)の持続時間が、その空間の鳴り方を決めるカギになるんだ」とRichは語る。クラブ用に空間を仕立て上げるというRichの仕事は、残響音を出来る限り取り除くということだ。この点についてRichは、「ウェアハウス(倉庫)のような空間のサウンドを良くするための最初ステップは、劇場で使うような重いドレープ(幕)を張ることだ。壁に張ることができるものの中で最も分厚いものの1つがドレープなんだ。これを貼ることで高中域、高域の周波数の鳴りを良くして、騒々しい音や残響音を止めるのさ」

このような空間の残響音は単純に耳障りなだけではなく、一晩通して聴いてしまえば「脳の疲労」を生み出してしまう。私たちの脳は、狩猟民族の頃から音で空間と時間を判断するようになっている。つまり、空間を飛び回る残響音(技術的な用語を使えば『二次反射』)は脳にとって情報過多であり、そして脳は多くの情報を理解しようとして過熱状態になってしまうというわけだ。

Jason Baird, two of the ears behind Martin Audio
しかし、予想していた人もいるかも知れないが、空間の音響を整えるのは非常に高価だ。Richによれば空間にドレープをしっかりと張るための金額はFunktion-One一式の金額の倍だとしている。そして当然のことだが、プロモーターやクラブオーナーはドレープなどに対して喜んで大金を投じるようなことはない。この点についてはMartin AudioのBaird氏も次のように指摘している。

「音響を整えることによってサウンドシステムにどれだけ多くの差が生まれるかという点はあまり理解されていません。彼ら(プロモーターやクラブオーナー)はサウンドシステムに大金を払うということだけで頭が一杯になってしまうので、自分たちの空間の音響を整えることに大金を払うなんて考えられないのです。『それならライティングやバーに対して(お金を)使った方がいい』というような感じです」

しかし、もし大金がなくても、空間の音響の持つ大きな意味を理解しているだけで、新しい場所を探しているプロモーターやクラブオーナーには大きな差が生まれることになる。Richは何も見つからなかった時に軍用のカモフラージュネットをドレープ代わりに使用したこと、また最近ではLoco Diceのパーティー「Under 300」のサウンドシステムの最後の仕上げにローラースケート場から盗み出した干し草の俵を使用したことも語ってくれた。干し草は音響的に大きな効果を発揮し、低音を吸収してくれたとRichは振り返っている。




以上から優れたスピーカーが優れたサウンドシステムを意味する訳ではないということが理解できただろう。他にも様々な要素が関わっているのだ。しかしながら、ある特定のスピーカーのブランドが優れたサウンドを生み出す存在として評価を高めてきた。そのブランドFunktion-Oneは、今やパーティーのセールスポイントとしても扱われている。Googleで検索してみれば、数多くのクラブのプロモーターたちがFunktion-Oneを話題にしていることが理解できるだろう。あるプロモーターなどは、自分たちのパーティーでかかった音楽を説明するのに「Funktion-Oneによってパワーアップしたハウス」という言葉を使っている程だ。また、ライバルブランドのサウンドシステムがFunktion-Oneと同じような用法で使用されているかどうかを検索してみると、数える位しか例を見つけることができない。大きなサウンドシステムがセールスポイントというのは何も目新しくはないが、オーディオマニアだけではなく一般的なクラバーに対してもブランド名の認知度が高まっているという現象は最近のものだ。

現在のFunktion-Oneの流行にはいくつかの理由がある。まずFunktion-Oneの創始者たちは70年代にTurbo Soundをスタートさせていたという点だ。この会社はスピーカー技術において大きな進歩を生みだし、Pink Floydのようなバンドと一緒に仕事をしてきた。つまりFunktion-OneのTony Andrewsはオーディオ業界に40年以上身を置いてきた人物であり、その経歴が彼をサウンドシステムに対して強烈で非常に率直な意見を言わせている。Tonyはライバルブランドに対して批判的であり、また大抵のライブ会場で使用されているラインアレイスピーカーに対しても「正しいオーディオとは言えない」としている。Funktion-Oneはラインアレイスピーカーとは対極的な位置にあり(そのためライブ会場ではあまり見かけない)、その姿勢は彼らがクラブミュージックを重点的に扱っている理由の1つとなっている。

Andrew氏はFunktion-Oneは小さな空間でサウンドをしっかり鳴らすという特色を持っているため、音響的に悪い空間で効果を発揮するとし、「我々のスピーカーは問題のある空間の方が良く鳴る。ラインアレイではサウンドが拡散してしまうし、実際その分散にふさわしい空間を用意した方が良い位だろう。だが、これは私の考えに反している。Funktion-Oneのスピーカーは音の拡散をオーディエンスの丁度外側に調整することができる。だから基本的に我々は音響的に難しい空間で鳴らすことが得意というわけだ」と解説している。

サウンドの拡散を少なくすれば、壁で反射する量を減らすことになる。細長い部屋の片側にスピーカーが置かれた状況を想像してみよう。もしサウンドの指向性が90度ではなく60度の角度で鳴ったとしたら、壁に当たる回数は90度よりも少なくなる。これがFunktion-Oneの基本的な考え方であり、スピーカーのデザインがポリゴンのような特徴的なものになっているのもこれが理由の1つだ(ただし、Funktion-One以外にもこのようなサウンドを生み出せるブランドは存在するという点は触れておくべきだろう)。




シークレットロケーションをクラブとして利用するダンスミュージックのプロモーターたちにFunktion-Oneのサウンドシステムが人気なのは上記が理由だ。そしてそのサウンドシステムが効果を発揮している場所もその理由となっている。BerghainやSpace Ibizaに導入されているという実績がFunktion-Oneの評価を継続的に確実なものへと変えている。Funktion-Oneのスピーカーはシンプルで効果的であり、つまり長時間に渡ってサウンドエンジニアの調整を必要とすることなくスムースなサウンドを生み出すことができるスピーカーで、安定して素晴らしいサウンドを生み出し続けている。

DC-10 famously employs Void Acoustics for their sound
Funktion-Oneがダンスミュージック業界内で最も大きな話題になっているサウンドシステムのブランドだということは明白だが、他のブランドも対抗できるサウンドを生み出している。DC-10ではVoid Acousticが導入されており、Ministry Of SoundとFabricでは複数の受賞歴を持つMartin Audioが導入されている。

Martin AudioのBaird氏は「クライアントをそういった(上記の)クラブへ連れて行って、デモンストレーションを行えば、説得力のあるものになるでしょうね」と語り、最高の機材を制作している製造元の「トップリーグ」の存在について触れた。Baird氏はそこに当然自社であるMartin Audioの名前を含めたが、Funktion-Oneの名前も挙げている。そしてFunktion-Oneを好んでいるRichも同意見であり、以下のような考えを述べている。

「サウンドシステムがどう機能するかについて情熱を持った人物によって、優れたノウハウと共にしっかりと組まれたサウンドシステムならば、現在でも非常に優れたサウンドを生み出すことができるだろうな。20年前に使われていたTurbo Soundでも、当時素晴らしいと言われていたサウンドを生み出すことができると思うね」

そのような人物、つまり熟練のサウンドエンジニアにサウンドシステムを設置してもらい、監督をしてもらうことを疎かにしてはいけない。RichはFunktion-Oneが不適切な形で設置され、酷いサウンドを生み出していた光景を何度も見たことがあると次のように話している。「知識のある人ならば、サウンドシステムを鳴らす前に酷い音が鳴ると分かってしまう時があるんだ。例えばFunktion-Oneのスピーカーは適切な角度で設置されなければならないし、知識がないエンジニアでは上手く鳴らせない代物だ」

「世の中には一番有名な商品を買う人がいるから、Funktion-Oneは誰もがチェックする機材だ。でも不適切なアンプで鳴らしたり、間違ったクロスオーバーを使用したりしてしまう人たちがいる。彼らは最高レベルのエンジニアとは言えない。そのような空間に足を踏み入れると悲しくなるね」

またアンプもサウンド全体に大きな影響を与える機材だ。ラウドスピーカーと組み合わせて使う場合は、ヘッドルームが重要なポイントになってくる。つまりスピーカーを鳴らすためにアンプが最大パワーを使用するような状況は避けなければならない。また、スピーカーを飛ばさない(壊さない)ためにスピーカーに適した出力のアンプを選択することも重要だ。Richは「このポイントについては本が1冊かける程だ」とその重要性について警告しているが、優れたアンプによってサウンドを大きく向上させることができるということは、彼の話を聞いていれば明らかだ(ちなみにCufleyはFull Fat Audioを使用している)。優れたサウンドを得るためにはケーブルに至るまで、あらゆる部分での調整が必要になってくる。当然のように聞こえるかもしれないが、各部分で高水準を保つことができれば、その結果としてのサウンドは優れたものになるということだ。


「サウンド全体の出来は、最も脆弱な部分に
かかってくる。サウンド全体はDJから
ラウドスピーカーまで1つの鎖のように
繋がることで生まれている」




サウンドシステム全体をしっかりと把握することは、経験が一番物をいうように思える。Richは、「俺を一般社会に放り込んだら、ただの役立たずだろうね」と言うが、彼にサウンドシステムに関する質問をすれば、オーディオの全ての面において詳細な説明が始まり、そしてそれは一般人ならば気まずくなってしまうような長時間のものになるだろう。彼はあまりにも集中して作業をするあまり食事を忘れてしまうこともあり、また半分宗教的とも言えるような自制心を自分のチームに課している。

「俺たちは仕事中の飲酒は禁止している。酔っ払ったエンジニアの話は大嫌いだね。酒を飲んだらしっかりとサウンドを聴くことができなくなる。更に酷いのはコカインをやっているエンジニアさ。コカインをやれば耳の中の有毛細胞が防護モードになるから、正確なリスニングができなくなる。コカインをやったサウンドエンジニアはすぐ家へ帰れと言いたいね。誰の役にも立たないからな」


The outspoken Tony Andrews of Funktion-One
Martin AudioのBaird氏もパーティーにおけるサウンドエンジニアの重要性について次のように語っている。というのは、近年のサウンドシステムは以前よりもかなり複雑になっているからだ。「訓練されていない人間が設定すれば、簡単に間違いが生まれてしまいます。酷い設置をされているサウンドシステムの音は、そのラウドスピーカーの問題ではなく、どのように設定されたかの方に問題があるのです」

今後酷いサウンドを聴くことがあったら、その怒りはスピーカーに向けない方が良いだろう。それよりも経験を積んでいないサウンドエンジニアや、音響面にしっかりと資金を投じなかったクラブオーナーに対して向けるべきだ。そしてサウンドを生み出すという流れの中で最も脆弱部分は、機材やサウンドエンジニアではない。実は音楽を提供する人物、DJなのだ。

この点については、Andrews氏が明確な意見を持っており、次のように語る。「サウンド全体の出来は、最も脆弱な部分にかかってくる。サウンド全体はDJからラウドスピーカーまで1つの鎖のように繋がることで生まれている。DJについてとやかく言いたいわけではないし、サウンドエンジニアは全員知っていることだが、数多くのDJがミキサーのインプットをレッドゲージまで突っ込んでしまっていることは驚きだ。ミキサーのメーターがレッドゾーンに突っ込んでしまうということは… 何て言えばいいのか、要するに始まる前から全てが終わっているということなんだ!」

システムはそこに組み込まれたものだけで機能する。そしてその1つである優れたDJは、出来る限り優れた音質で、最高の音楽をかけることに留意しなければならない。言い換えれば、DJのかけるレコードの音が悪ければ、どんなにスピーカーが優れていても聴こえてくるサウンドも悪くなるということだ。殆どの専門家は、最高のサウンドを得るためには、DJはWAV、もしくは(正しく設定されたターンテーブルでプレイされる)レコードだとしている。そして、この話題を「デジタルVSアナログ」の議論に置き換えたいと思っている人たちがもしいるとするならば、その人たちにはAndrew Weatherallを参考にしてもらいたいとRichは語る。

「WeatherallはCDJを使っているけれどレコードから録音していて、音質について最新の注意を払っているし、素晴らしい耳を持っているから好きだな。彼がもし素晴らしいレコードを持っているとしたら、まずそれを綺麗にクリーニングして、それからゆっくりと時間をかけて自分のスタジオで聴いてから、CDに焼くのさ。こうすればレコードを持ち歩く必要がなくなるしな。あと、彼はCDJ2000を使っているけれど、これは素晴らしいサウンドのCDプレイヤーだから、サウンドの温度やフィーリングがしっかりと伝わる。魔法のような夜にするために必要な全てが彼の元には揃っているね」




ベースが戻ってきた時のあの感覚、拳を突き上げて鳥肌が立つようなあの感覚は、低音質のファイルや低品質のスピーカーからはまず生まれない。Richのような専門家にとっても、数量化できないこの部分がサウンドにおいて最も魅力的な部分だとしている。

「人間の聴覚は俺たちが計測/理解できる以上の能力を持っているから、サウンドと人間の聴覚は敬意を持って扱う必要があるし、それらを向上させるように努力しなければならないんだ。俺たちが出来ることは、技術的な面で可能な限り優れたサウンドを生み出すことで、人間がサウンドに対してどのように反応をしているのかという点についてはまだ理解できていない部分がある。分かっているのは正しいサウンドならば、素晴らしい気持ちになれるという点だけさ。多くの人たちが週末に優れたクラブに通うのが病み付きになってしまっているし、サウンドはドラッグよりも凄いということが分かる。それは間違いないな」

Translation / Tokuto Denda
Published / Tuesday, 22 May 2012


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