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Machine love: Dadub
Machine love: Dadub

イタリア人ダブテクノデュオがマスタリング、ライブセット、そして世界政治について語る。

Dadubがアナログ信奉者だと思うのは無理もない話だ。彼らの生み出す複雑なダブテクノからは「本物のアナログ機材」を思わせる粗さがにじみ出ているため、殆どの人がそう思うはずだ。しかし、このイタリア人デュオのスタジオに入ると、目に飛び込んで来るのは、Uherのオープンリール1台と、Abletonが立ち上がった大きなディスプレイだけだ。しかもUherは使おうとすれば、煙を吹いてしまう。「勿論冷たい音よりも、温かくて汚れた音が好きだ。でもそれは音の豊かさ、そして音響の特質という意味であって、ファッション的な意味じゃない。今は2012年だ。今現在という現実を無視する必要はないよ」と彼らはインタビュー前にメールでこう書いてきていた。

そう、その「2012年」にDadubことDaniele AntezzaとGiovanni Contiは、Stroboscopic Artefactsからファーストアルバムをリリースする予定で、ここ数カ月に渡り、オリジナリティ溢れるトラックを大量にストックしてきた。彼らの音楽はダブテクノだが、いわゆるダブテクノとは少し勝手が違い、「祈祷師的」などと表現されている。また、自分たちの作品自体の他に、マスタリングエンジニアとしても評価を得ており、Stroboscopicのリリース群に独特の質感を与えている。このインタビューは先月行われたが、まずはそのマスタリングについてから話が始まり、最終的に彼らの音楽に何よりも大きな影響を与えている世界政治についてまで触れることになった。







あなたたちのマスタリングは魔法のように素晴らしいと評価されていて、私自身もそう思う時がありますが、他のマスタリングスタジオとは違うと自分たちでも思いますか?

Daniele Antezza: 別に他と違っているとは思わないけれど、僕たちはそのトラックをどう解釈するかという部分を重要視している。これは世の中の捉え方と関係していると思うんだ。マスタリングする時は、当然複雑な技術的な部分を考えなければいけないけれど、その音楽がどう世界とコミュニケーションを取ろうとしているのかという部分にも気付いてあげなければならない。これは凄く重要なんだ。というのは、そうしないと、ただ技術的な部分だけになってしまって、それはそれで素晴らしい音になるかも知れないけど、そこにはソウル(魂)が宿らない。

Giovanni Conti: 今日RAに掲載されていたMonolakeのインタビュー記事を読んだよ。Dubplates & Masteringでは受け取るトラックの多くはミックスが上手くないから、マスタリング時にかなりの部分を削り取ると書いてあったよね。しっかりとした音に仕上げるには、沢山の邪魔な部分を取り除き、残された部分を持ち上げなきゃいけないんだ。このインタビューには僕たち自身の姿を当てはめることができた。特にArtefacts Masteringを立ち上げた当時のことを思い出したよ。僕たちの元にも特別な音楽、特別な雰囲気を内包した音楽が届けられたけれど、それらはベッドルームで安いスピーカーを使って作られたものだった。サブベースやコンプレッション、EQなんかについて殆ど知識がない人物がベッドルームで作った音楽を、Chris LiebingやSpeedy Jといった20年以上のキャリアがあって素晴らしい機材を持っているアーティストの音楽と並べてみれば、そのベッドルームで作られた音楽は本当にどうしようもない音楽に聴こえるよね。

ただ、僕たちは取り除くという方法ではなくて、トラックを活かせると思う部分、トラックに魔法や個性を与えられる部分をプッシュする方法を用いている。そして、技術的に完ぺきに仕上げるというよりは、どちらかというと感覚的な部分でトラックをひきたてるようにしているのかも知れなくて、それが上手く作用しているんだろうね。僕たちは2年前にスタートしたんだ。かつてはビッグなスタジオでマスタリングをしていたけれど、そこで満足のいく結果を得られなかったというような人たちから仕事の依頼を受けるようになってきている。彼らがビッグなスタジオから得た結果とは、「トラックは綺麗で、音も明確になっているけれど、削られ過ぎていて、生っぽさが失われてしまった」というようなものだったんだと思う。こういうビッグなスタジオは、雑な部分を削り取ってしまうんだ。テクノとかエクスペリメンタル・テクノでは、そういった部分をミス、または余計な部分として考えない時がある。そういった部分がトラックに個性を与えるんだ。

Daniele Antezza: ミックスに魔法を生むのはそういうミスだったりするんだ。ソウルは機械には宿らない。これがポイントだと思う。







マスタリングしてくれとトラックを送ってくるけれど、スタジオには立ち会えないようなアーティストたちとはどの程度コミュニケーションを取っているのでしょう?

Daniele Antezza: 正直に言えばかなり沢山話すよ。彼らがどういうアイディアを持っているのか理解したいからね。僕たちにとってそこは凄く重要なんだ。

Giovanni Conti: マスタリングに立ち会えないという人とのコミュニケーションは特に大事だ。そうしないと彼らの考えを想像するだけになってしまうからね。マスタリングで一番気に入っている部分は、自分たちが感覚的に当然だと思っている部分に色々気付かされるという点だよ。トラックを受け取った時は、一体それを誰が作ったのか、何故作ったのか、どこの部分を本人が気に入っているのかに対する知識は無くて、自分には大雑把な外観図しかないんだけど、10分かけてそのトラックを2回聴けば、細かい部分まで理解していくようになるんだ。

トラックがどのように聴こえるべきかという点で予想し過ぎてしまうと、そのトラックの意味というか、中心を失ってしまう。だからマスタリングっていうのは…禅みたいなものだね。自分の個性が反映されるもので、自分なりの現実へのアプローチともいえる。マスタリングでは自分自身を複雑に絡み合った世界から解き放たなければならない。客観的になり、自分という姿を消さなければならないんだ。でもそれは不可能だ。無理なんだ。だからマスタリングという作業は自分への挑戦なんだと思う。そしてこの部分で失敗してしまうマスタリングエンジニアもいるだろう。マスタリングエンジニアっていう人種は大抵の場合数多くの経験を持っているから、全てを知っていると思い込んでしまう。それが原因だ。

客観的だと自分が思えば思うほど、実際はそうではないですよね。

Daniele Antezza: 自分の知覚とアーティストの知覚の間にレイヤーを敷くみたいなものだよね。このレイヤーの部分で自分なりのマスタリングが出来なければいけないんだ。

マスタリングの知識は誰から学んだのですか?

Giovanni Conti: 僕の場合は、今まで聴いてきた全ての音楽の記憶だと思う。6歳の頃から1日8時間から18時間位音楽を聴いていた。それで自分の中に知識、つまりプロフェッショナルに制作されたトラックがどうやって聴こえるべきかについての知識を蓄積していった。結局、マスタリングというのは技術的な作業なんだ。ノブやスレッショルド、レベルなんかをいじって…。本当に「エンジニア」なんだなと思う。だからマスタリングエンジニアって名前なんだけど、とにかく僕たちは非常に感情的なものを技術レベルで扱っているんだ。だけど、マスタリングエンジニアが勘違いを起こしてしまうのもこの部分なんだ。技術的な部分を重要視し過ぎてしまう。僕たちは別に橋を建てているわけじゃない。音楽をより良く聴こえるようにするのが僕たちの仕事なのにね。ちなみに「より良く」っていうのは、僕の考えではより多くの感情を持ち込み、雰囲気を提示させるっていうことだ。

機材は関係ないと考えているようですが、実際は何を使っていますか?

Giovanni Conti: 機材が関係ないというのは、それが最新だったり、最高級だったりする必要はないっていう意味だ。30年前の機材でも先月発売された機材よりも良い音を出せたりする。重要なのは、機材に対してしっかりと理解しておくこと。例えばコンプレッサーならば、それを使って音にきちんと個性を加えることができるようになっていなければならない。もしくはプリアンプだったら、プラグインではできない形で低音にパワーを与えることができなければならない。僕たちはパンク的な価値観で育ってきたから、安い機材で出来る限りのことをやろうとするんだ。サウンドカードは5000ユーロするから安くはないけど、でもビッグなスタジオみたいな、30万ユーロもするような機材は持っていないよ。僕たちが持っているのはDrawmerのプリアンプ1962だ。

このプリアンプが優れている点は? 何故これを選んだのでしょう?

Giovanni Conti: 3つのチューブが備わっているという点だね。インプットに1つ、ノブでコントロールできる奴が1つ、そしてアウトプットに1つ備わっているんだ。サウンドをデジタルから電気信号へ変化させて、それを真空管かアナログ回路に通す時、サウンドはもうゼロワンの世界じゃなくなる。音の芯に迫っていくんだ。プラグインでも真似はできるけど、プラグインにはノイズが存在しない。ノイズとハーモニックディストーションを信号に加えるというアイディアは直感的には理解できないと思う。というのは、通常なら「マスタリング用にはとにかくクリーンに聴こえる機材が欲しい」と思うのが普通だからね。でもこのDrawmerは少しノイズを加える。だけどこれはトラックにとっては良いことなんだ。特にデジタルで制作した音を処理すると、そこに物理的な存在感を与えてくれるんだ。僕たちは他にもトラックに色を加えてくれる機材を持っているよ、Overstayerとか…。

Daniele Antezza: Overstayerは僕も大好きだね。小さくて強烈なんだ。







小さくて強烈?

Giovanni Conti: 素晴らしい機材だよ。L.A.に住んでいる人物が作っているんだ。確かGod Lives Underwaterっていう名前のバンドでドラムを叩いていた人物で、名前はJeff Turzoだったと思う。このコンプレッサーは基本的にはマスタリングコンプレッサーじゃないし、マスタリングユニットでもない。これはロックバンドのドラムをレコーディングする時に使うコンプレッサーなんだ。サチュレーションのノブがついていて、低音の芯が持ち上がって、あとは高音域の倍音を加えることで低音を知覚的な意味で低音らしくしてくれる。クリーンでパワフルな音になるんだよ。知覚的な意味でって言ったのは、実際に耳で聴いている低音は、低音の「基本周波数」ではなくて、分離によって生まれる「高音域の倍音」の部分なんだ。音が明確になればなるほど、高音域が聴こえるようになる。20Hzや30Hzよりも200Hzの方が簡単に聴くことができる。30Hzというのは可聴範囲じゃない。これは空気の振動レベルの音なんだ。

買ってから、「欲しかったのはこれだ!」と感じた機材はどれですか?

Giovanni Conti: 多分API2500かな。APIはマスタリングコンプレッサーとして考案された機材じゃないけれど、この機材がトラックに与えることができる色が凄く特徴的だから、年々マスタリングエンジニアが使う頻度が高まっている機材なんだ。でも僕たちはコンプレッサーとしては殆ど使うことがない。使っても1db、2db程度かける程度だ。もしミックスで目立ちすぎている部分があって、その周波数を少し落ち着かせたいという時や、低音が大きすぎてぐしゃっとしている時に多少使う位で、後は基本的にサウンドに色を加えるために使っている。多用されている機材だから、みんなAPI2500の音はすぐ区別できると思うよ。


でも実際に自分がどういう作業をしているのか理解するためには、優れたサウンドカードとスタジオルームが必要だ。何故ならそれらが揃っていなければ、サウンドの処理前と処理後の違いに気付けないからね。ここは凄く重要なポイントで、僕たちもお金が出来たらすぐに投資してきた部分だよ。僕たちは一番高いスピーカーは買っていない。多分11,000ユーロ位だ。ビッグなマスタリングスタジオへ行けば、そこには10万ユーロのスピーカーがある。でもある程度の価格帯を超えると、クオリティとコストの比は、1対1ではなくなると思う。例えば1万ユーロのスピーカーの次に2万ユーロのスピーカーを買ったとしても、質としては10%程度しか良くならない。

このスピーカーはどのメーカーなのですか?

Giovanni Conti: ATCのスピーカーだよ。色々情報を得て、実際に聴きに行った時に、凄くフラットな音だったんだ。以前はADAMのラウドスピーカーを使っていた。これも素晴らしいスピーカーだよ。金属製の膜(メンブレン)の特殊なツイーターなんだ。でもATCのスピーカーは柔らかいシルク製の膜(メンブレン)がツイーターに使用されているから、真逆なんだ。ADAMのラウドスピーカーは、例えるならステロイドで強化された高音域を聴いているような感じなんだ。全てが完ぺきに聴こえるし、明確で煌びやかに聴こえる。でも特徴がありすぎで、聴いていて疲れてしまうんだ。

でもATCのスピーカーは、家に帰った時に耳鳴り、頭の中に蜂が飛んでいるような感覚を得ることはない。凄くソフトなんだ。高音域はこれよりも安いスピーカーよりパワーがないし、人によってはソフト過ぎると感じるかもしれないけど、このスピーカーはADAMのスピーカーよりももっと鳴らせると思っているんだ。

Daniele Antezza: ATCのスピーカーを理解するのに少なくとも1年は費やした。というのは、全てがクリーンで温かく聴こえると限界が分からなくなってしまって、色々試さなければならなくなるんだ。低音域を強めたり、高音域を強めてみたりしてね。このスピーカーで行った最初のマスタリングがかなりレンジの狭い感じになってしまったのを憶えているよ。特に高音域がそうだった。僕たちの感覚ではかなりレンジが広くて明るいサウンドだったんだけど、普通のラウドスピーカーで同じトラックを鳴らしてみたら、凄くレンジが狭い感じに聴こえた。








サウンドカードは何を使っているんでしょう? かなりの金額を投じたと言っていましたが。

Giovanni Conti: マスタリングにおいてサウンドカードに求められる部分は、再生時に周波数のブレが生じないという点だ。ある程度高価な製品でないと、チップ、IC、あとはコンポーネントなどで歪みが生まれたり、位相、ジッター、それにカラーレーションの問題が生じたりするんだ。ビッグなスタジオには高価なサウンドカードが3、4種類備えてあるけど、僕たちが持っているのはPrism Sound Orpheusで、ニュートラルで透明度の高い音を出す製品だ。

でも、高額を投じることは、特定の状況でしか意味をなさないと思う。たとえば、20本のマイクを使って録音されたオーケストラの作品を可能な限りリアルにしたいというのであれば、高額を投じる意味がある。でもエレクトロニックミュージックの場合は…

既に「リアル」ではない。

Giovanni Conti: 逆に「リアル」を作り出す音楽なんだ。何かを参考にすることはないんだ。

Daniele Antezza: 高額を投じるかどうかは「基準」の問題でもある。品質の基準は、特定の企業によって生み出されるんだ。彼らは基準をコントロールするために機材を売る。僕はこのことについては興味がないし、別にギャーギャー言いたいわけじゃないんだけど。でもこのトピック、つまり「どう音がある“べきか”」というテーマは、本当に意味があるのかなと思うんだ。僕が言いたいのは、汚染の基準なんてどうやって決められるんだってことだよ。「質」じゃなくて、「製品」についての話が多すぎると感じる時があるんだ。例えば、アナログドラムマシンを使っていない僕らのトラックに対して「あのトラックでは本物のアナログドラムマシンを使っているよね!」なんて驚いた顔で言われる時がある。つまりこういう状況は知覚に関係してくるんだ。







このスタジオにある唯一のアナログ機材は最近壊れてしまったのですよね?

Giovanni Conti: そう。テープレコーダーだよ。

何の目的で使用していたのですか?

Daniele Antezza: 自分たちのライブセット用のシンセをレコーディングしたくて2年前に買ったんだ。自分たちのライブセットのデジタル感が嫌だったんだよ。だからこれを使っていくつかパターンをレコーディングしたんだけど、本当に温かみがあるサウンドになった。Lucyが次のStellateシリーズで何かアンビエントっぽいものをやらないかと言ってきた時、このレコーダーのサウンドが完ぺきにフィットするって思ったから、またレコーディングをしようと思ったんだけど、今度は煙を吹いちゃったのさ!

Giovanni Conti: そのトラックはまだテープに残っているよ。

自分たちのライブセットのデジタル感が嫌になったと言っていましたが、ライブはどういう形で行うのですか? セッティングを説明してくれますか?

Daniele Antezza: セッティングはそんなに複雑じゃないよ。僕がシーケンスで、Giovanniが複雑に組まれたエフェクトを担当する。僕はいつも簡単なシーケンスを組もうとするから、シーケンスの数は少ないけど、上手に組まれていて音はいい。

複雑なライブではないといったけれど、トラックを聴くと途中で道に迷ってしまうような感じがあって、凄く複雑な音楽だと思います。

Daniele Antezza: ライブは僕らにとってはゲームみたいなものなんだ。実際のセッティングを見せたら多分笑うと思うよ。それ位簡単なんだ。でも僕たちが得たい感覚は凄く深い所にあるから、ディケイやアタックといったパラメーターをいじらないでサウンドに感情や感覚を与えるにはどうしたらいいのかについて何時間も費やすことがある。そしてこういった細かい部分に迫っていくと、音の魂みたいな部分を失ってしまう時がある。僕たちは確かに技術的なスキルを多少持っているけれど、そういう細かい部分が目的ではないんだ。

でもライブでは忙しそうにしていますね。何回かライブを見させてもらいましたが、ライブ中は色々と作業をしているように思えました。

Giovanni Conti: 僕がライブで担当しているエフェクトチェーンは、デジタルサウンドを処理して、1つの音から空間を生み出そうと何年も試してきた結果として出来上がったものなんだ。昔オーディオビジュアルのインスタレーションをやっていた時はMax/MSPを使っていて、DVDから既に出来上がっている音楽を取りだして、そしてセンサーデータを変数として使うことでその音楽をMax/MSP内で処理していた。オートマティックなサウンドプロセッシングチェーンを作成していたんだよ。僕はその場はいなかった。機材を1カ月以上放っておいて、でもシステムは完全にオートマティックに機能しているという状況がよくあったね。またレンジセンサーやビデオトラッキングデバイスなどからも数値を取り出して、その値をリバーブやディレイ、フィルター、またはサウンドのトリガー用の変数として使用したり、3Dの映像合成を操作したりしていた。

自分でも複雑だと思っていますよね?

Giovanni Conti: 僕は沢山のMax/MSPのパッチを持っているから、ライブセットをやるって決めた時に、これをダンスフロアでも活かせるんじゃないかって思ったんだ。それが上手くいっている。僕たちが最初に走らせるシーケンスは本当に簡単なものなんだ。聴こえてくる複雑な感じや動きは、僕がシンプルなMIDIコントローラーを使って並行して走っているトラック同士を操作して、お互いにフィードバックを与えることで生まれるんだ。

Daniele Antezza: 凄く高価なMIDIコントローラーなんだよ(笑)。







Giovanni Conti: 11年間使っているけど、大好きだね。ノブは16個しかないけれど、操作するパラメーターの数は60位あると思う。各パラメーターに最小値と最大値を設定して、その範囲で自分の好きな音を出していくんだ。勿論良い音を出したり、キック1つから豊かな質感を得たりするのには時間がかかるけど、その後は別に大変じゃない。実際、使っているエフェクトはAbletonのデフォルトのプラグインみたいなものなんだ。複雑なプラグインは使っていなくて、殆どがディレイやリバーブ、フィルターだ。それらを適切なシーケンスで使えるかどうかということが重要だ。

僕はプラグインや新しいエフェクトについてのハイプが大嫌いだ。ミュージシャンや若い世代の人たちにとって逆効果だと思う。若い子が作ったトラックを聴くと、非常にプロフェッショナルな音だから感心するよ。でも「君はこのレベルのトラックを作れるんだね。確かに音はいい。でもなんで先月ビッグネームがリリースした作品と同じトラックを作っているんだい?」って思うね。

自分たちが他と違うオリジナルなサウンドのトラックを作っていると感じられるまでどの程度の時間がかかりました?

Daniele Antezza: 数多くの実験と失敗を重ねたよ。

Giovanni Conti: その時々で変化するね。例えば”Way to Moshka”は1時間で完成した。でも他のトラックは何時間も、何日もかかる。

Daniele Antezza: 2年間活動してきて沢山のオリジナルなサウンドを手に入れることができたと思う。君がレゲエを好きかどうかは知らないけれどレゲエで例えるならば、レゲエのプロデューサーたちの使っていたテクニックの1つに、1つの要素を異なった方法で表現するというものがあった。Lee PerryのThe Upsettersで言えば、彼らのコンセプトはサウンドを乱すことだけだった。自分たちが持っている少しの要素を乱すことだけで沢山の楽曲を生み出したのさ。

Giovanni Conti: 僕にとっては、自分が何をしているのか考えなくなるような精神状態にいけるかどうかだ。つまり本能で行うだけというか。音楽的な知識から来るのではないし、他のレコードを聴くことによって生まれるものでもない。ある瞬間に生まれる関係性みたいなものだね。上手く言えないけど、神秘的な経験なんだ。

そういう神秘的な体験をするのは簡単なことではないですよね。特にあなたたちは技術的な人たちでもあるわけですから。

Giovanni Conti: 僕の個性の形成という点で言えば、技術的な自分という部分は、自分の考え方やアイディア、感情を、他人に対して効果的に発信することができるように形にするための必要悪だとしか考えていない。僕たちは完ぺき主義者だからキックやEQの調整に一晩を費やすことが出来るけれど、同時に2時間でアレンジを終わらせることも出来る。そしてその時に聴き直してみると「ワオ!これはいいぞ!でもどうやってやったんだ?」という感じになるんだけど、どうやったかは覚えていない。時々こういった無限で時間感覚がなくなるような感覚に陥るんだ。







今はStroboscopic Artefactsからリリースされる予定のアルバムを制作中だということですが、それについて何か話してもらえますか?

Giovanni Conti: アルバムはホームリスニング用になっているよ。ダンスフロア向けのトラックもいくつか入るだろうけれど、目指しているのはそういう方向ではないんだ。

Daniele Antezza: 僕たちがこのアルバムでどこから一番インスピレーションを得ているかというと、世界で今何がおきているかということなんだ。僕たちは、音楽とは社会の構造と動きを映し出す鏡だと考えているから、多くのアンダーグラウンドミュージックも、アーティストたちが批判したいような事象と同じ構造を持っていると感じる時がある。そして実際に市場の制限や芸能界的な部分についてはそういう構造を持っていると思う。だから僕たちはテクノやエレクトロニックミュージックでは通常使われない構造やルールを持ち込もうとしているんだ。論争を起こしたり、誰かや何かに反対したりすることなく、サウンドでこの姿勢を強調しようとしているんだ。これは自分流で他の世界を想像する方法だと言えるね。

論客になりたいとは思っていないようですが、議論の中心になりそうな事柄について沢山話していますね。

Daniele Antezza: 多分僕は元々そういう人間なんだと思う。今身の回りで起きていることに本当にむかついているんだ。新聞を良く読むし、経済や社会、政治、現代思想なんかについて良く考えるんだ。だから僕たちが音楽を作る時に、こういった部分をインスピレーションにしているのはごく自然なことなのかもしれない。

Giovanni Conti: 僕の中にあるパワーの1つに、今のギリシャで起きていること、今のヨーロッパ、そして10年前にアルゼンチンで起こったことに対する失望と怒りというのがある。これはさっき話した精神状態になるため使うパワーだよ。そして僕が何に失望するかというと、多くの若者や知性ある人々、そして色々なことを理解できるはずの優秀な人々が、自分たちの世界で何が起きているかを気にしていないということなんだ。テレビの向こうで起きていて、自分から500メートルの範囲内に来ない限り、自分たちの生活には関係ないって考えているんだろうね。

エレクトロニックミュージックはそういう世界について何か言えると?

Giovanni Conti と Daniele Antezza: そうだね。

Giovanni Conti: DJやパフォーマーは何時間もプレイすることで、沢山の人たちとエネルギーを交換できると思う。そうすることで人々の目を覚ましたり、彼らが家に帰った後、何かしらの現実にアクセスしたりすることを可能にする。つまり現実の受け取り方を変えることができると思うんだ。プレイしていて楽しいと思える瞬間の1つは、沢山の人たちが僕たちのところへ来て、「祈祷的な経験をした」と言ってくれる時だよ。ロシア、ベルリン、ポーランド、アメリカで同じ意見をもらえたんだ。世界の別々の場所で、みんなが同じ言葉を選んで自分たちの経験を語ってくれた。これは素晴らしいことだよ。そして同時に衝撃的だった。僕が欲しいのはこういう経験だ。僕はこれが欲しいから存在しているんだ。僕は人々をただ楽しませてダンスさせて、仕事のことを忘れさせるために存在しているんじゃない。人々を新しいレベルの現実世界へ導きたい。そしてそういう状態になってくれれば、それこそが僕にとっては凄く大きな報酬で、1万ユーロをもらって2時間コマーシャルな音楽をプレイするよりもよっぽど価値がある。勿論、僕たちにもお金は必要だし、家賃を払ったり、食料を買ったりしなければいけないけれど、お金を生むために音楽を利用するのは、ミュージシャンとして最悪の行為だと思う。非物質的なコミュニケーションという音楽の本質に対する背信行為だね。






Translation / Tokuto Denda
Published / Monday, 12 March 2012

Photo credits /
Christian Olofsson


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