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Playing favourites: Martyn
Playing favourites: Martyn

オランダ出身のダブステッパーMartynの音楽を形成した多種多様な要素を紐解く

Martyn Dykersは初期のドラムンベース作品をリリースしてシーンに登場して以降、これまでサウンドの面でも多くの変遷を辿ってきた。当時まだ無名のレーベルに近かったHessle Audioに提供したTRGの"Broken Heart"のリミックスではこのオランダ人プロデューサーが類稀なメロディ性を含んだ豊かなサウンドを生み出せることを広く証明し、やがて彼は自身のレーベル3024を立ち上げ、2009年にはアルバム『Great Lengths』を発表した。黎明期のベースミュージックにフレッシュでクリスプな感性を加え、ダブステップの進化を加速させたMartynはいまや21世紀のダンスミュージックをリードする存在感を放っている。

オランダを離れ新天地ワシントンDCに活動の拠点を移したMartynは、その放浪ともいえる音楽遍歴をさらに昇華させ、Brainfeederという意外なレーベルからセカンドアルバム『Ghost People』を間もなくリリースする。このアルバムを聴いて最初に受ける印象は、テクノやハウスのテンポやグルーヴを援用しつつもよりざっくりとしたサウンドなのだが、そこには非常に密度の高いレイヤーが重ねられている。鋭いリスナーなら、彼の音楽的嗜好が実に幅広いジャンルに跨がっているであろうことはすでにお気づきのはずだ。今回、RAのOli WarwickはワシントンDCにある彼の自宅に電話インタビューし、Amsterdam Dance Eventへの出演を控えた彼に新作アルバムの背景となったレコードたちについて詳しく尋ねてみた。



Stanley Cowell
Brilliant Circles
1972

Stanley Cowellはあまり広く知られているアーティストではないと思うんだけど、どうやって彼の音楽を知ったの?

ジャズのレコードは昔からずっと集めていて、そのなかでもとくにこのStanley Cowellのアルバムにはほんとうに衝撃を受けたんだ。僕が思うに、Miles DavisやColtraneみたいないわゆるジャズの王道とSun Raをはじめとしたフリージャズの間にはわりとはっきりとした境界線があると思うんだけど、Stanley Cowellはちょうどその中間だと言ってもいいんじゃないかな。彼は60年代のジャズにおける重要な裏方的存在のピアニストで、このアルバムにもBobby HutchersonやWoody Shawといった有名どころも参加してる。フリージャズを聴くのは好きなんだけど、普段はあまり長く聴けないんだよね。というのも、僕はジャズやクラシックにはある程度のしっかりした楽曲構造を求めてしまう性質だから。そういう意味ではこのアルバムは完璧なバランスを持ってるんだ。

このアルバムで特に好きな部分は?

ジャズのレコードをコレクトしようと思ったら、まずは名前の知れたプレイヤーの作品から聴き始めるのが普通だよね。でも僕の場合は主にリズムセクションを支えていた人たち・・・ドラマーやベーシスト、あとピアニストのリーダーアルバムのほうが面白いなと思ってたんだ。Miles Davisみたいなカリスマは明らかに全ての演奏をコントロールしているけど、ドラマーがリーダーアルバムを作った場合は他のソロ奏者の演奏を活かすためにより空間を意識した演奏になるでしょ。ドラマーもまわりのプレイヤーに対して「よし、みんな好きなようにやってくれ」って感じでね。こういう風にして作られたアルバムには自由な雰囲気があるし、結果として音楽的にも興味深いものが多い気がするんだ。



Philip Glass
The Fog of War
2003

さっきクラシックにおける音楽的構造の話がちょっと出たけど、Philip Glassのこのサウンドトラックを選んだのもそういう理由から?

彼の作品に関してはそのシンフォニーという部分で好きなんだ。もし応用美術というものがあるとすれば、まさにこんな感じなんじゃないかな、って。Philip Glassの音楽を聴くようになったのは『コヤニスカッツィ』(邦題:平衡を失った世界 / 1982年)のような映画を通してだったね。『Fog of War』はケネディやリンドン・ジョンソンの時代にアメリカ国防長官を務めていたRobert McNamaraについてのドキュメンタリー映画で、そのインタビューもすごく重苦しい内容なんだけど、このサウンドトラックは非常にぴったりとはまってるんだ。Philip GlassやSteve Reichの音楽で個人的に好きな部分は、その非常に数学的な作曲技法なんだ。Logicみたいなソフトウェアでグリッド基調で音楽を創っていると、なおさらその面白さがわかると思うよ。ランダム性の発生確立をコントロールするために全ての音符を特定の数で分割するところなんか、すごくメカニカルだよね。

エレクトロニック・ミュージックにおける反復性という点でもSteve Reich、Terry Riley、Philip Glassといった人々は非常に重要な基礎を築いたよね。こういう現代音楽は沢山聴いてきたの?

僕はクラシックよりもジャズを沢山聴いてきたけど、こういう現代音楽と呼ばれるものを聴くのも好きだよ。特に、何か他の作業をやりながら聴くのはね。こういうテクスチャー・ミュージックは読書をしている時によく聴くんだけど、ある意味「読む」という行為を音楽が拡張してくれるような感覚があるんだ。たぶん、音楽的な構造がそれを聴いている人間の思考にも作用するからなのかな?もちろん、他にもいろんな聴き方があると思うよ。ただ何もしていない時間に聴いてもいいし、思いっきり没頭して聴くのもいい。ルームランナーで走りながら聴くのもいいし、もちろん読書の時にもね。ただし、こういう音楽は飛行機に乗っている時は絶対聴かない。すごく不安にさせるんだ!



Autechre
Amber
1994

初期のAutechreのような音楽もさっき言ってたみたいにクラシックと同様の効果があると思う?

AutechreをPhillip GlassみたいなBGMと同様に捉えられるかどうかに関してはわからないな。個人的にAutechre、とくにこのアルバムと『Incunabula』が重要なのは、僕が「テクノはクラブで踊るための音楽だ」と思い込んでいた時期に彼らの音楽に出会えたってことなんだ。Artificial Intelligenceシリーズを展開していた時期のWarpの作品は僕にダンス以上のエレクトロニック・ミュージックのさらなる魅力を教えてくれた。そのなかでもAutechreはサウンドそのものやアイデアという点ですごく深いインパクトを受けたね。

Warpからリリースされるレコードは初期の頃から好きだったの?

僕がクラブに行くようになったのは1992年か1993年頃なんだけど、当時すぐにPolygon Window、Seefeel、Higher Intelligence AgencyといったアーティストたちのCDを買いに走ったよ。そこからOrbitalや初期のレイヴものを聴くようになったりね。

当時のクラブのチルアウトルームでは実際にこういうArtificial Intelligenceシリーズのようなテクノがかかってたの?

いや、少なくとも僕が行ってたクラブではそういうのはかかってなかったね。Autechreの初期のライブを実際に観に行ったりしたことはあったけど、当時のクラブの主流はデトロイトとシカゴ一色だったからさ。こういうタイプの音楽はCDで買って、家だけで聴くって感じだった。当時のチルアウトルームという点では、ニューアンビエントと呼ばれるものやビートレスの音楽はあまりかかってなかった。実際にかかってたのはOneohtrix Point Neverのアルバム数作だったんじゃないかな。個人的にはまさにこのへんが90年代前半って感じを象徴してると思う。僕のニューアルバムではOneohtrix Point Neverや初期Warpからの影響が随所に見つけられると思うよ。よりエレクトロニックで、アルペジオ的なところがね。アンビエント的なトラックはほとんどないんだけど。

Oneohtrix Point Neverや初期のWarpにはデトロイトテクノのルーツと共通するようなSci-Fi的な感覚があると思うんだけど。

それに加えて、初期エレクトロからの影響も大きいよね。Afrika Bambaataaのインスト・ヴァージョンとかごく黎明期のエレクトロとかさ。



Public Enemy
It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back
1988

この作品もこれまできみが紹介してきたレコード同様、あるいはそれ以上のラフさがあって、きみのアーティストとしての独自性とダイレクトに繋がってるね。きみの新しいアルバムとも非常に共通点が多い気がする。

自分では考えたことがなかったけど、そう言われてみればそうかも知れないよね。今回のアルバムを作っていたとき、「33 1/3」ってシリーズの本をよく読んでたんだ。このシリーズは現在クラシックと呼ばれるアルバムがどのようにして生まれたか、ってことについて詳細に書いてある本なんだけど、その中でもこのアルバム『It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back』について書かれた1冊は非常に興味深かったよ。アルバムがリリースされた時代背景、彼らがほんとうに訴えようとしていたこともすごく興味深いんだけど、とりわけこのアルバムのプロデュースを手掛けたThe Bomb Squadのプロダクション面での記述はめちゃめちゃ面白かった。サンプリングの際に用いたちょっとしたトリックなんかはまさに目から鱗って感じでさ。僕の新しいアルバムでも、彼らのテクニックが実際に応用されてるよ。Public Enemyのこのアルバムはすごく分厚いサウンドのレイヤーで構成されてて、ヘッドフォンで聴いてみると同時にいろんなサウンドが重なり合ってて圧倒されるんだ。The Bomb Squad特有のサンプリング手法によるノイズまじりのビートとか、効果的なステレオ・パンニングとか、すべてが渾然一体になってる。プロデューサー的視点で見ても、オーガニックなフィーリングを得るためにこうやって少しだけルーズに、少しだけノイジーにサウンドを作るってところは非常に刺激になるよね。



Black Meteoric Star
Black Meteoric Star
2009

いろんな音楽があるなかで、Gavin Russomが手掛けたBlack Meteoric Starの作品は際立ってザラついたラフな感触だよね。そこで個人的に感じているのは、『Great Lengths』などの過去のきみの作品に比べてもここ最近のきみの2枚のシングルはきみ自身が言うように非常にオーガニックな感触に変化してきているんじゃないかってことなんだけど。

この『Black Meteoric Star』で僕が好きな部分は、すべてが歪んでいるってところなんだ。音楽そのものが成立するか破綻するかというギリギリのせめぎ合いを辿ってドライブしているようなね。そういう限界の部分を探ろうとするのはすごいことだと思うし、僕のここ最近のシングルはもちろん、新しいアルバムもそうした限界の部分を追求しているつもり。今回のアルバムでは、最終的なマスタリングをDaddy Kevにやってもらった以外はすべてを僕自身でやったんだ。ほかのロンドンのマスタリングエンジニアたちからのDaddy Kevの評判は、サウンドのクオリティという点で彼はほんの少し限界を越えがちだって言うんだ。彼がマスタリングを手掛けたFlying Lotusのアルバムを聴けばきっとその部分が分かってもらえると思うんだけど、僕はそこからさらに踏み込んだマスタリングを彼にやってもらいたいと考えたんだ。シングルもアルバムも、歪むか歪まないかのギリギリの処理をしてあるんだけど、クラブ環境で聴けばそのサウンドの力がハッキリ分かると思うよ。



Morphosis
What Have We Learned
2011

このMorphosisのアルバムもさっき話していた音楽のラフネスという部分と関わりがあると思う?

たぶんね。でも、僕がこのアルバムに魅かれている最大の理由はそこじゃないんだ。Morphosisの手掛ける作品でほんとに興味深いなと思うのは、彼が他の誰とも違うことをやっているってところなんだ。レバノン出身の男がWatergateだのBerghainだのブリティッシュ・テクノだのといったいわゆる流行のサウンドとはまったく違う音を出しているってところも好きだな。真にインディペンデントでありながらとびきりフレッシュなサウンドのまさしく好例だよ。このアルバムがリリースされてからまだ日が浅いけど、僕はすでにこのアルバムを何度も聴き込んでる。次にどんなサウンドやシーケンスの展開が来るのかすっかり記憶してるくらいさ。ここ数年の間でもこのMorphosisのアルバムは群を抜いた衝撃的な作品だと思う。言わずもがなプロダクションは文句の付けようが無いし、このサウンドを彼が素直に誠実に生み出しているってとこが最高なんだ。

すごくエモーショナルで、それでいて濃密な音楽だよね。

僕が最初に聴いたのは"Too Far"っていうヴォーカルトラックなんだけど、これは最初2562が教えてくれたんだ。「これは絶対聴くべきだ、こんなに誠実な作品は最近じゃお目にかかったことが無い。俺たちなんかすでに毎日これを聴いてるぜ」ってね。実際聴いてみると、彼の言う通りだったよ。ヴァイナルはもちろん、CDヴァージョンもダウンロードヴァージョンもすべて手に入れたよ。僕はその作品が気に入ったらすべてのフォーマットで買ってしまう性質だからね!



DJ Duke
From the Mind of a Deejay
1994

ここで選んだ他のレコードはちょっとシリアスすぎたかなって思ったから、こんなのも入れてみたよ!

ここでDJ Dukeが出てくると、他のレコードに比べてダイレクトでベタな感じもするけど?

まあ、そうだよね。最近のエレクトロニック・ミュージックから消えてしまって久しい、色気たっぷりのレコードでもあるしね。ハウスではみんなセクシーなサウンドを作ろうとしているけど、DJ Dukeほどのものはなかなか無いと思うんだ。今のUKベースミュージックのシーンでは、ニューヨーク・ハウスやニュージャージー・サウンド、ワイルドピッチ・スタイルなんかを再評価しようとする動きがあるんだ。Marc KinchenやTerry Hunter、Kenny Dopeあたりの名前もその中でよく挙げられるんだけど、個人的には彼らはある意味洗練されすぎてるとも思うんだ。

Marc Kinchenはたしかにクリーンで分かりやすいトラックが持ち味だけど、DJ Dukeはすごく変なサンプルなんかをざっくりとカットしてトラックに載っけたりするものね。

そうそう、そして彼の作るヴォーカルもののハウストラックもめちゃめちゃいいんだ。もろゲイっぽかったりバイセクシャルがテーマになってたりしてて、普通のクラブではなかなかかけにくいんだけどね。僕もたまにこういうトラックをDJでプレイして冒険してみるんだ。単純に楽しいってのもあるけどね。DJ Dukeのレコードはしょっちゅうプレイするってわけじゃないんだけど、プレイする時はいつもうまくいくんだ。少しダーティすぎるし、同時に少し派手すぎるところもあるんだけど、これをかけると必ず「すげー!まさかきみがこれをかけるなんて思ってなかったよ!」って言われるんだ。



Jan Hammer
Miami Vice – Music From The Television Series
1985

これもDJ Dukeを入れたのと同じような理由でリストに入れたの?

うん、それにちょっとした呑気さというか。でも、多くの人たちはJan Hammerのミュージシャンシップを過小評価しすぎだとも思うんだ。Miami Viceのサントラで一番好きなのは、これを聴いただけで自分がマイアミにいるような気分になれるところかな。もちろん、実際に80年代にはTVシリーズも見ていたしね。プロダクションという点で言うと、このアルバムには80年代のシンセサイザー・ミュージックの愛すべきチープさが全て詰まっているってところも魅力だね。

さっきのOneohtrix Point Neverの話とも繋がるんだけど、彼がGamesっていうプロジェクトをやってるのは知ってる?おかしな話なんだけど、僕が去年いちばん多く聴いたのはGamesやWashed Outみたいな音楽なんだ。あとCaribouとかね。こういうのって今チル・ウェーブって呼ばれてるんだっけ?こういう今の音楽が80年代の安っぽいサウンドを下地にしてるって事実は面白いよね。Scritti PolittiやMiami Viceのサンプルが使われてたりするものね。当時スネアにわかりやすいリヴァーブをかけるのはほぼお決まりのパターンだったし、それがまた安っぽく聴こえる理由でもあるんだけど、こういう安っぽさは嫌いじゃないんだ。そういう意味で、このMiami Viceのサントラは僕の好きな要素が詰まってるとも言えるんだ。John Hughesの映画で使われてたいかにも80年代っぽいサントラとかもね。ところで、きみはいつ生まれたの?

僕が生まれたのは80年代で、僕もそういうサウンドで育ったよ。当時のサウンドを再発見したり、懐かしんだりできるようになったのは最近のことだけど。多くの人が最近になってようやく80年代のサウンドを再評価してるよね。

ミュージシャンやプロデューサーといった人種はもうちょっと違った視点から再評価してるかもしれないね。プロダクションの技法という視点でね。とくに80年代前半に関して言えば、この時期に多くの人がたくさんの機材を持てるようになったからね。リヴァーブとか、大仰なストリングスが入った安価なシンセとかね。Jan Hammerがよく使ってたパン・フルートもそうだな。

チル・ウェーブのアーティストに関して言えば、Hype WilliamsやMaria Minervaといった人たちはこういういかにも80年代らしいサウンドを独自のフィルターを通して昇華し、くすんだ痛切なサウンドに仕立て直しているし、ときにはロマンチックなものにもしているよね。

Gamesの12インチにしたって、あれは基本的に当時のLA流インスト・ヒップホップとも言えるしね。Flying Lotusがもし1983年にトラックを作っていたら、きっとGamesのような感じに仕上がってたはずだよ。とはいえ、今のアーティストたちは80年代ポップやニューウェーブのサウンドをサンプルとして引用してるという点で多少異なるけどね。MPCを使ってサンプリングしてトリガーすれば全く新しいスタイルが生まれるんだ。僕もそういうサンプリングのアイデアは好きだし、80年代のアルバムを適当に引っ張り出してきてサンプラーでカットアップしたりして新たにトラックに仕立ててみたりしてるしね。

この「Playing Favourites」で僕が前回インタビューしたのはLerosaだったんだけど、彼のセレクトはほとんどが80年代前半のポップミュージックだったよ。

へー、そうなんだ。僕も初期のPeter GabrielとかEurythmicsを入れようと思ってたんだ。僕はYazooの大ファンだったし、もっとムーディなときは初期のKate Bushなんかうってつけだよね。僕の両親が聴いてたのはまさにそういう80年代のポップミュージックだったし、やっぱり嫌でも自分自身のDNAに染み込んじゃうんだろうね。高校生ぐらいになると、そういう音楽が嫌でなるべく遠ざけようとするものだけど、結局そこから完全に離れることなんかできやしないんだよね。いつのまにかiPodにKate Bushの曲が全部入ってて、全部歌えるようになってたりね。そうしてきみはきみの親父さんそっくりになってくってわけさ。遺伝って怖いね!

Words / Oli Warwick
Translation / Kohei Terazono
Published / Wednesday, 19 October 2011


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