レーベルオーナーUlf ErikssonはKontra-Musikを「基本的にメチャクチャ」と表現する。Eriksson、そしてその「メチャクチャ」なレーベルは、マルメ（Malmö）がベースだ。マルメはスウェーデンの南端に位置する都市で、デンマーク本土と橋で繋がっている。スウェーデンに住むならばマルメが最高だが、エレクトロニックミュージックが大事だという人は他の都市に移った方が良いだろうとErikssonは言う。「ストックホルムにあるラジオ番組がマルメはエレクトロニックミュージックに最高な都市だって思い込んでいて、僕の所に電話してきたことがあった。僕に言わせるとそれは事実じゃない」

事実ではないかもしれないが、周囲の評価がその電話の通りならば、原因の一端はKontra-Musikが担っているのだろう。2006年にAgaricのリリースからスタートしたこのレーベルは、レーベルの方向をゆっくりと微調整しながら評価を高めてきたレーベルだ。ミニマルをルーツとするこのレーベルは、ざらついた音触りと高い指向性を持つテクノを経て、デトロイトルーツのディープなサウンド、そしてMoondogに影響されたハウスなどをリリースしており、Scuba、Shed、Jus-Edなどがリミキサーとして名前を連ねている。Kontra-Musikのその微妙な軸のズレはゆっくりとファンを獲得してきており、中でもHenrik ‘Gunner’ Jonssonは特別な敬意を寄せている。スウェーデン人プロデューサーである彼は、昨年Kontra-Musikからリリースを果たした。

「至る所でレーベルロゴを見かけたんだ」ヨーテボリのアンダーグラウンドシーンにいた頃を思い出しながらHenrikが語る。「それで彼のレーベルをチェックし始めたんだけど、リリース作品には常に“アンチ”の要素があるってことがわかったんだ。そこに魅き寄せられた。上手く説明できないんだけど、常に頭の片隅にひっかかるっていうか。だけど、本人は自分のレーベルがスウェーデン国外にどう影響しているかイマイチわかってないんだ」Henrikの共同制作者Joel Alterが頷く。「僕たちはベルリンに住んでて、彼はマルメに住んでる。僕たちはいつも彼に対して、『自分じゃ何やってるか理解してないだろうけど、周りは注目してるよ』って言ってるんだ。僕たちは彼のレーベルを信頼している。彼は自分の功績みたいな部分を気にしていないからね」

Erikssonに直接この点について尋ねてみれば、彼は自分に功績があることすら知らないと言うだろう。実物の彼はプレス用写真と同様のやつれたキリストのような「綺麗な」格好をしており、特に自分の功績については控えめな態度を取る人物だ。Erikssonがベルリンに来た際に私は話をする機会に恵まれたが、その時彼はマルメで長期に渡り続いているレーベルナイトを「ただラッキーなだけ」と語り、またOni AyhunやGerald Donald（Dopplereffekt、Zerkalo、Heinrich Muller）を抱えるブッキングエージェントを構えることになったことについても「アクシデント」だと答えている。またブレイク寸前だったAgaricなど、常に他人よりも先にアーティストを発掘する能力については「ただの偶然」だとし、Marcel Dettman初のリミックスワークをリリースしたことについても「ラッキー」とコメントした。そして前述したScuba達に加え、A Made Up Sound、Ben Klock、Silent Servant、Echospace、Anton Zapなど羨ましいようなリミキサー陣を確保していることについては、本人は本気で困惑しているようだ。「どうなるかわからないね。大体僕がこの人達をどうやって全員確保できたのか不思議だよ」しかし、ここ1年Kontra-Musikが音楽的にブレず、面白い音楽がリリースできたという点については本人も肯定するだろう。昨秋リリースされたGunnar Jonssonの『Muskelminne EP』はSvek風ハウスミュージックの美しき日々を取り戻し、Jonssonがその次に出す予定だったソロアルバムはJonsson／Alter名義のオーガニックなハウスアルバム『Mod』として発表されることになっている。また多作で知られるスウェーデン人の実験音楽家Andreas TillianderはStefan ThorとのコンビKondens名義でレーベルに参加して以来、実り多い時間を過ごしている。Kondensではうねるようなダブテクノをリリース、そしてその後、実験的な要素を更に推し進めたソロ名義Mokiraで『Time Axis Manipulation』をリリースしている。

Erikssonはこの『Time Axis Manipulation』リリース後、Marcel Dettmanに対してリミックスを頼むことにしたのだが、Marcelは単純なリミックスの代わりに『Kontra-Mikira-Mixes』という単独の12インチ作品のリリースを希望した。これは過去のMokiraのリリースの全てのサンプルを使ってトラックを作り、2曲にまとめるという形でリリースされた。Erikssonはこのような2011年のレーベルの広がりについて「忙しいね。でも別に儲からないから、結局は知ってる人と面白い仕事をした方が楽しいってことになっていく。友達と一緒に仕事をすると、仕事の意義が大きくなるし。だから今は以前よりレーベルをコントロールできているね」

Kontra-Musikがここまで辿り着くのに10年の時間を要した。というのは、アイディア自体は2001年からスタートしていたからだ。しかし当時のErikssonはDJとしての自分が探しているようなレコードをリリースする準備ができていなかった。彼の探していたレコードとは、素晴らしいプロダクションスキルが詰まっている作品というよりは、ミュージシャンシップが前面に出てくるような作品だったのだ。Erikssonは20代前半に、「他のみんなと同じように（本人談）」ロンドンで短期間生活したのだが、マルメの郊外で行われていたウェアハウスパーティーに通っていた時と同様に、今度は英国のレイブカルチャーに身を浸すことになっていった。Erikssonはこの時に都市部の商業的に傾いているクラブでのパーティーと郊外のレイブの間を取るような活動の可能性に気が付くことになった。そしてアンダーグラウンドなエレクトロニックミュージックを都市部の合法な場所で開催すれば、レーベル資金を確保できるのではと考えるようになっていった。

こうして行われたKontra-Musikパーティーの1回目はSonja Monearをゲストに招いて開催された。現場レベルでは成功に終わったが、当然のことながら儲けという意味では彼の希望通りにはいかなかった。しかし完全な「敗戦」というわけではなかったのだ。Inkonst cultural centreで行われた1回目が成功したことで、この場所をパーティーのホームグラウンドにすることが可能となり、Tikiman、Scion、Modeselektor、そしてThomas Fehlmannなどがパーティー黎明期にプレイすることになった。また、会場のオーナーたちが彼の仕事ぶりに感心し、彼を会場側のスタッフとして正規雇用したことで、レーベルをスタートさせる資金を手にすることにも繋がった。

Kontra-Musikのローンチタイトルの2枚、Agaricの『Surfacing EP』と『The World is Asleep EP』がリリースされ、同時に作品に対するポジティブなフィードバックを得たErikssonは、他のアーティストの発掘を開始し、「発掘・リリース・次へ」というリズムをレーベルに組み上げていくことになる。その結果、One、Mikael Stavöstrand、Scaff & Apparatusが参加し、更にアーティスト発掘を進めて行く過程で、デトロイトダブテクノ支持者Luke Hessに出会い、深海のような作品「Believe & Receive」EPをリリースすることになった。そしてその直後にはHessのFXHE（Omar Sのレーベル）におけるレーベルメイトJason Fineが参加する。それまでたった1枚しかリリースしていなかったFineだったが、陰湿なトラック“Workin’ It Out”の存在がレーベルをFineとの契約に仕向けることになった。ちなみにこのトラックはmnml.ssgs内のErikssonの最新ミックスのオープニングを飾っている。

Fineはこの経緯についてEメールで次のように語っている。「凄く簡単な話だったよ。Omar SはFXHEで何をリリースするかっていう点については選り好みが激しいんだ。でも俺はもっと自分の音楽をリリースしたかった」そこでErikssonはKontra-Musikでのリリースを持ちかけ、Fineは「どれか気に入ってくれればいいな」という気持ちで12曲を送ったのだが、結果としてErikssonは全曲気に入り、レーベルにおける初のアルバム、そしてFineにとっても初のアルバムとなる『Our Music is a Secret Order』をリリースすることになった。今も彼ら2人の関係は最初と変わらない形で続いているが、Fineは2人の関係について「最低限度の友情、極めてビジネスな関係」としているが、お互いを人間として尊敬しており、そしてお互いを成長させるプロジェクトが出来たことに対しても敬意を示している。ErikssonにとってFineのディープでクラシックなミニマリズムは「僕のやりたかった方向に向かってるサウンドだった。僕がレーベルを始めた時に欲しかったサウンドだ」と説明している。一方、セカンドアルバム『Future Thought』と気品溢れる『Colors EP』のリリースを通じてFineは制作の精度を高めていき、結果自分の作品が届くべき人に届くことになった。「俺はUlfの判断を信じてるんだ。彼が俺の作品のリミキサーにGerald Donaldを準備しているってことを知った時は本当に興奮したよ。Drexciyaは常に俺の音楽にインスピレーションを与えてくれる存在だからね」

「今まではほとんどが偶然の産物だった」

昨年Erikssonはレーベル、PR及びデジタルディストリビューションのセクションに人を雇い入れ、マルメ以外、またスウェーデン国外でのDJプレイの回数を増やしている。また長年の活動でゆっくりと着実に、そしてアクシデントも交えて培われてきた自分のプライドも徐々に表面に出すようになってきているようだ。「これまではほとんどが偶然の産物だった。でも今は違う」とErikssonは語る。Erikssonは今年前半を費やしたアルバムプロジェクトについて特に自信を持っている。ストックホルム在住のTillianderと以前から何か一緒にやろうという話を進めていたErikssonは、TillianderがKondens名義での12インチのリリースの後に『Time Axis Manipulation』のノンストップバージョンを送ってきた時をこう振り返っている。「1回程度聴いて、すぐメールで返事をした。『リリースしたい』ってね」

またErikssonはJonsson/Alterのアルバムについても同様に自信を持っている。そのアルバム『Mod』について「非常に新しいというか、パーソナルというか、人間的。そういう感じのトーン、もしくはヴァイブがアルバムにはある。僕は人間臭いクラブミュージックが好きなのさ」とコメントしている。また次のModからの12インチシングルについては、Donato Dozzy、そしてErikssonの長年の地元の友人Minilogueをリミキサーとして迎えている。「僕は彼らをミュージシャンとして、そして友人として尊敬している。そして彼らはマルメのクラブシーンに対する僕の活動や僕のレーベルを尊敬してくれている。彼らは常にプロフェッショナルな活動をしてきたけど、こちらは趣味範囲の活動でしかなかった。でも今は違う。今こそ一緒に仕事するタイミングなんだ」

Kontra-Musik Mix

Erikssonの友人であり、Kontra-Musikクラブナイトにも不定期に出演しているThirdによるミックス。レーベルのリリース作品を多く盛り込んだミックスでハウスとテクノを併せ持つレーベルの多様性を浮き彫りにしている。

Download: RA Label of the Month 1110 Mix: Kontra-Musik
(right click + save target as)
Filesize: 124.7 MB
Length: 51:56

Tracklist
01. Bohren & Der Club of Gore - Schnäbeln [PIAS]
02. Jonsson/Alter - Orgelpunkten [Kontra-Musik]
03. Kondens - Valvet (Substance Remix) [Kontra-Musik]
04. Monolake - Plumbicon (Rebreather Mix) [Monolake / Imbalance Computer Music]
05. Silent Servant - El Mar (Svreva Remix One) [Semantica Records]
06. ONE - Sexmachine [Kontra-Musik]
07. End Of All Existence - Nowhere To Run [End Of All Existence]
08. Marcel Dettmann - Factory Report 2 [Kontra-Musik]
09. Mokira - Time Axis [Kontra-Musik]
10. Jonsson/Alter - Jätten [Kontra-Musik]
11. Jason Fine - Hihat Visitation [Kontra-Musik]