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Apparat: 悪魔は細部にこそ宿る
Apparat: 悪魔は細部にこそ宿る

イタリアClub to Clubの出演直前のSascha RingことApparatをキャッチし、ニューアルバム制作における産みの苦しみと気持ちの落ち込みをモチベーションに変える作業について訊いた。

気持ちが落ち込むことは、誰にとっても苦しい。気持ちが塞ぎ込んだとき、Apparatの音楽を聴けばSascha Ringという男の内面に辿り着くまでに気の遠くなるような幻覚をくぐり抜けなければならないことが分かるだろう。『The Devil's Walk』はメランコリーさという部分にかけては比類の無い作品だ。彼は明らかにすごく疲弊している。アルバムの最後のトラックに"Song of Los"というタイトルをつける作業にすら悩んだ事だろう。

In the studio with Ellen Allien in the mid-'00s.
Saschaは2000年代の中盤にはEllen Allienと共同でスタジオ作業を行っていた。Apparatのベスト・ワークのほとんどがコラボレーションのもとに生み出されてきたと一般に思い込まれているのは、いささか奇妙な現象だと言わざるを得ない。たしかに、Ellen Allienと共に制作したアルバム『Orchestra of Bubbles』は幅広いリスナーに彼の存在を知らしめることに大きく寄与した。ウォッカまみれのパーティボーイズ、Modeselektorと組んだModeratではインディー・ロックのイベントや世界中のコンサートでライブを経験した。今回の『Devil's Walk』におけるそもそもの制作がスタートしたのはメキシコでのことだった。その作品はWarren SuicideのメンバーでもあるPatrick Christensenの助けを借りて難産の末にようやく完成した。

Apparatのバンド・プロジェクトでもプレイするPatrick Christensenはその制作プロセスにおいて不可欠な存在であった。Apparatは振り返る。「すでに録音したマテリアルに対して、Patrickはそれほど尊重していない様子だった。僕がそのドラムサウンドを作り上げるのに6ヶ月もかかったっていうのにだよ。正直キツかったね。彼は『おお、いいね、そのサウンドは使えるよ』なんて言うんだけど、基本的にそれらは使われることはなかったし、彼も最初からそのつもりだった。彼はサウンドをほとんどいじらなかった。もともとのサウンドが十分な強度を持ち合わせていて、そこにしっかりとしたアイデアがありさえすればどんどん肉付けをしていけばいいという進め方だった。」



対するChristensenはこう振り返る。「まず、Saschaには1週間の間僕に全てのマテリアルを預けさせてもらって、その楽曲ごとの骨格を見つけるためにひたすら聴き込んだんだ。それぞれのトラックが持つ根本的な部分をね。で、僕自身はなんとなく全てを最初からやり直したいって気分になって、ベーシックな部分だけを残してSaschaに提案したんだ。『俺はこれがいちばんベーシックなアイデアだと思うんだけど、どうだい?』ってね。幸い2人とも思惑はほぼ一緒だったので、そのベーシックを下敷きに肉付けの作業をしていくことはわりと簡単に進んだね。それぞれの曲の基本的な部分や本来のエモーションは一緒だけど、その表面的な部分だけが違ってるって感じかな。」

Christensenが語っている"表面的な部分”とは、これまでになくアコースティックな指向だった。Apparatが数年の間レイヤーにレイヤーを重ねて作り上げてきた『The Devil's Walk』の最終的な着地点はある種有機的でシンプルなものであった。メキシコ旅行からスケッチやアイデアを持ち帰ってきた後、Apparatはメキシコへ行きたいと最初に思ったときの思考ルーティンに立ち戻っていたことに気付いた。その心境を彼は「Nerding Around」、つまり鬱屈した逡巡と表現する。「かなり長い間、僕は非常に作り込まれた音楽しか創れないんじゃないかって気がしてたんだ。プログラムの方法やReaktorの使い方は知り尽くしているし、実際に10年もの間それをやってきたわけだけど、ある部分ではそれだけじゃ十分じゃないんじゃないかという思いも強くなってきた。もっと良いミュージシャンになりたい、って考えていたしね。」メキシコで作ってきたマテリアルをうまくまとめられない自分自身に対する苛立ちと失望が急速に彼の内面を占領しようとしていたその時、K7からDJ-Kicksシリーズのミックスを制作してほしいというオファーに彼はすぐに飛びついた。「その時点では、アルバムについてはもうあまり考えたくないと思っていたんだ。」

ようやくアルバムの制作に戻ろうかという時期、Apparatは友人の紹介でChristensenと知り合い、新たなプロデューサーを得てアルバム用のマテリアルはあらためてベーシックな部分まで削ぎ落とされた。そこからがさらなる実験のステージの始まりだった。Christensenは「当時、Apparatはアルバムの制作について堂々巡りの状態だったよ。」と認める。そこで、敢えてアルバムの制作に締め切りの期限を設ける事にした。Apparatは休暇に入る直前にその締め切りを設定したが、それでも休暇の出発ぎりぎりまで完成させる事は出来なかった。Apparatは振り返る。「いざフライトを予約して休暇に出発したまではよかったんだけど、ミックスダウンがまだ終わっていなかったからヘッドフォンも休暇先に持っていったんだ。僕らを担当しているミキシング・エンジニアからはその間もいくつものヴァージョンのミックスを送ってきてたね。10ヴァージョン以上のミックスをやらなきゃいけなかったから、さぞ大変だったろうなと思うよ。」Christensenは笑って「グリーンだけどグリーン過ぎず、ちょっとだけグリーンで・・・みたいにメールで指定してくるから、そりゃ訳がわからないはずだよ」と答える。Apparatは「結局そのせいで僕の休暇は台無しさ。でも最終的なアルバムの仕上がりには満足してる。自分でもよく聴いてるもの。でもこういう作り方でもう一度アルバムを作れって言われても無理だろうな。作り方を思い出せって言われてもなかなか思い出せないよ。」と語る。

Apparatはエレクトロニック・ミュージックのシーンにおいても最もメランコリックな男だろう。彼はこのアルバムを引っさげてバンドスタイルで行うツアーについても語る。このバンドでは、彼自身もギターを抱えてプレイする。ただし、彼はまだ正しいギターの弾き方すら理解していない。「コードもいまだに分からないし、ギターを使って曲を作る事も皆目分からないんだ。Patrickがマトリックス化した譜面を作って僕に基本的な演奏法を教えてくれたんだ。僕は昔デザイナーをやっていたこともあって、基本的にヴィジュアルから理解するタイプだからね。だからこそ僕はエレクトロニック・ミュージックを作っているとも言えるよね。」








Christensenは驚きを込めて話す。「Saschaがギターを買ったのはたった3ヶ月前のことだよ。それが今じゃ1000人規模のスタジアムでギターを演奏して、しかも上手くやってのけてるっていうんだから凄いよね。彼は子供っぽい無邪気さがあるけど、同時に非常に集中力の高いアーティストらしい一面もある。まあ、Jimi Hendrixとかそんなんじゃなく、あくまでApparatらしいスタイルでね。」この2人にインタビューした時点では、まだ彼らのバンドはロンドンで一つの公演を終えたばかりだが、これから控えているUK数カ所でのショウ、スロヴァキアでのフェス出演、イタリアClub to Clubでの劇場を使ったショウなどが楽しみで仕方ないといった印象だった。

ライブやModeratとしての活動、ソロでの活動など複数のプロジェクトについてどう折り合いをつけるかという事について、彼はテクノに対してこれまでになく楽観的だと語る。「ずっと昔、ガキの頃にDJをはじめて、自分の音楽をプレイするためにライブもやるようになって・・・以前いくつかのインタビューで、『テクノは退屈だ』って言った事も確かにあるけど、大抵の場合はジャーナリストたちが僕の言わんとする内容を捩じ曲げて短絡的な見出しにまとめてるだけなんだ。『Apparatはテクノ嫌い』とかね。僕はそんなこと思っちゃいないよ。クラブ・ミュージックという文脈で言えば、テクノは非常に機能的な音楽だと思う。テクノはクラブで聴いてこそ理解できる音楽だと思うよ。今度はイビザでライブをすることになってるんだけど、イビザでもいろんなところに音楽を聴きに出かけたいと思ってるし、クラブでのライブやDJも楽しみにしてるんだ。バンドで演奏することもすごく楽しんでるし、同時にクラブ的なマジックをそこへフィードバックさせるような対比こそが大事だと思うんだ。」

Apparatが手掛けたDJ-Kicksはこのシリーズの他のミックスのようにダンスフロアーに直結した内容ではないかもしれない。彼のアルバム同様に、極端なハイや極端なロウを行き来する非常に気まぐれな内容だ。しかし、Apparat本人に言わせれば、アルバムもDJミックスも同じくクリエイティブなプロセスを経て作られているのだと言う。「僕はほんとに自分に対して厳しく追い込む人間で、たしかにそういう性格に自分でも気が滅入ることがある。この性格のせいでハッピーなままでいられないってところもあるしね。でも、考えようによってはそのおかげでトライを続けられるわけだし、より良くなっていくことができるという見方もできるんだよね。」言い換えれば、彼のように落ち込みがちな人間にも、まだまだ長い道のりが待っているということだろう。そして、Apparatはすでにそのさらに先を行っているのだ。

Translation / Kohei Terazono
Published / Monday, 03 October 2011

Photo credits /
Header + Live - Tim Boddy



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